第13話 魔獣・魔物との戦い

 スフェキンと魔獣との戦闘も気になるけれど、こちらに出現している魔物も強さが増していた。


「ツリーコングだ。力に押し負けるな」

 声がした左側を見ると、背の高い魔物が3体出現した。見た目の強さではロックベアーと同等かそれ以上に思える。私でも戦況が不利なのが把握できた。


「オパリル、私は平気だからツリーコングを倒して」

「分かりました。ジュムリアちゃんは、この場所から動かないでください。ノナハさん、ジュムリアちゃんをお願いします」

「分かった。ジュムリア殿は自分が守る」

 ノナハさんが答えると、オパリルが短剣を片手に走り出す。


 途中にいる魔物を殲滅しながら、ツリーコングへと向かった。すばやい動きで1体目のツリーコングに致命傷を与えると2体目へと移った。オパリルに任せれば、周囲の魔物は平気そう。私は自衛団の回復に専念できる。


 怪我した団員が私の近くに来た。『エメラルド開放』と念じると、団員の周囲に光の粒子が出現した。淡い感じの光が消えるころには、苦痛に満ちていた団員の表情が柔らかくなる。


「助かった。これならまた戦える」

 団員は武器を手にとって魔物へ向かって走り出した。

「第3自衛団は回復魔法が使える団員が少ないから助かる。引き続き回復を頼む」

 ノナハさんが周囲を警戒しながら声をかけてきた。


「いつ回復させたらよいのか分からないから、今みたく近くに連れてきてくれるとうれしい。団員が動けない場合は私が向かうから教えてね」

「分かった。回復させたい団員は自分が指示を出す」

 私はノナハさんの指示に従って回復をしていく。視界の端にみえるオパリルは、すでに2体目のツリーコングを倒して3体目と戦っていた。


 第3自衛団は陣形を崩すことなく、魔物を殲滅している。オパリルが戦闘に加わったことで、第3自衛団は徐々に魔物を押し返していた。

 アウイトが私の元へ降りてくる。


『スフェ、魔獣、倒す』

「倒し終わったの?」

『もうすぐ、戻る』


「ありがとう。引き続き、周囲を警戒してね」

『魔獣、魔物、警戒する』

 アウイトが飛び立つのを確認してから、ノナハさんへ視線を向ける。


「スフェキンが魔獣を倒したから、もう安心してね」

「本当か?」

 驚いた顔でノナハさんが聞き返す。


 私が答えようとすると、木々の間から金色の鎧が見え隠れした。

「もうそこまで戻ってきているよ」

 ノナハさんは私の視線を追いかけて、スフェキンの姿を確認できたみたい。


「魔獣は倒された」

 大きな声でノナハさんが、前方のカルスミスさんへ聞こえるように叫ぶ。カルスミスさんもスフェキンの姿が分かったみたい。


「このままの陣形を維持して魔力だまりへ向かう。風魔法はいつでも唱えられるように準備だ」

 カルスミスさんを先頭に進みだした。


 オパリルはツリーコングを倒し終わると私の元へ戻ってきた。入れ替わりにスフェキンが強そうな魔物を倒していく。戦闘も安定してきて、私の回復魔法も使う頻度が減ってきた。


 少し進むと、黒紫色の霧が広範囲に漂っているのがみえる。

「風魔法を唱えよ」

 カルスミスさんの号令で風魔法の詠唱が始まって、前方にある黒紫色の霧へ無数の風魔法が飛び交わる。霧が晴れたかと思うと、すぐ下にある黒紫色の水たまりから霧が湧き出てきた。


 魔物の出現よりも殲滅速度が上回って、いまは黒紫色の水たまりがみえる位置まで移動していた。

「水たまりという可愛さはないわね。普通の家くらいの広さはありそう」


「これだけの大きさなら、幻獣が魔獣になっても不思議ではありません。じきに魔力だまりは消滅すると思いますので、あとは様子を見ていれば平気でしょう」

 横にいるオパリルが答えてくれた。オパリルの言葉を証明するように、黒紫色の水たまりは、風魔法で水たまりくらいの大きさまで小さくなった。


『魔物、もういない』

 上空から降りてきたアウイトが教えてくれた。

「あとは魔力だまりの消滅を待つだけね」

 スフェキンも私たちの横へ来て、魔力だまりの最後を見届ける。水たまりの大きさが小さくなって、最後は地面のみしか見えなくなった。


「魔力だまりが消滅した。任務完了だ。全員が活躍したおかげだ。ご苦労だった」

 カルスミスさんの声に周囲では歓喜の声が上がった。

「ジュムリア殿たちに感謝する」

 横にきたノナハさんが話しかけてくる。


「第3自衛団の活躍も凄かったよ」

「そう言ってもらえると訓練した甲斐があった。日が傾きかけてきたので、すぐにロベンダーへ戻る。帰りは魔物が少ないと思うが気をつけてくれ」

「注意しながら一緒に進むね」


 移動の準備ができたようで、出発時と同様な位置関係で動き出した。森へ来たときと異なって、団員の顔には笑顔がみえた。


 完全に日が落ちたあとにロベンダーへと着くと、ノナハさんが話しかけてきた。

「ご苦労だった。報酬などの詳細は明日の朝でも構わないか」

「私たちは平気よ」

 私が答えると、ノナハさんがカルスミスさんの元へ向かった。そのまま第3自衛団は移動を開始して、私たちも宿屋へと向かった。

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