第10話 初めての依頼

 第3自衛団への指導が終わった翌日に、冒険者ギルドへ顔を出した。朝の時間からだいぶ立っているからか、冒険者の数はまばらだった。


「何か私たちでも可能な依頼はあるかな?」

 掲示板に残っている依頼を覗く。人気の依頼は朝の張り出し時に取り合いになるらしくて、この時間になると面倒な依頼か割に合わない依頼が多いみたい。


「3名で受けるのならシルバーランクまで可能ですが、面倒な依頼が多いです」

「俺は討伐系の依頼が希望だが、ジュムリア様の好きで構わない」

 掲示板を見ながらオパリルとスフェキンが答えてくれた。


 オパリルとスフェキンがいれば面倒な討伐依頼も問題ないと思うけれど、ほかに何かないかと思って探すと興味深い文字が目に飛び込んできた。

「畑の収穫手伝い依頼は面白そう。報酬がお金以外に採れたての野菜をもって帰れるのもうれしい」


「ジェムリアちゃんは食べ物関連には積極的過ぎますが、依頼内容に問題ありませんので、私もこの依頼で平気です」

「俺も問題ない」

『僕、野菜、好き』


「みんな問題ないみたいだから、受付に依頼書を渡すね」

 依頼書を剥がして受付がいるカウンターへ向かうと、ミクリザさんがいたので依頼書を渡した。


「ジュムリアさん、おはようございます。ホサキさんの依頼ですね。ランク的にも問題ありませんので受け付けます。ホサキさんの家は西地区にありますので、まずはそちらへ向かってください」

 ミクリザさんが簡単な地図を渡してくれた。


「畑は何処にあるの?」

「ロベンダーを囲っている壁の外になります。魔物はほとんど出てきませんが、たまに出現しますので注意してください」

「ありがとう。頑張って依頼を達成するね」


「初めての依頼で緊張するかもしれませんが、頑張ってください」

 ミクリザさんに見送られて冒険者ギルドをあとにした。


 道に迷うことなくホサキさんの家に着くと、ホサキさんが出迎えてくれた。見た目は40台くらいの男性で少しやせていた。

「冒険者ギルドより依頼を受けてきました」


「よく来てくれた。むりに野菜を運ぼうとして腰をやられて、野菜を収穫する人手が足りなくて困っていた」

 話を聞くと奥さんとふたりで収穫していて、いまは奥さんのみが畑に行っているみたい。ホサキさんは移動するのがむずかしいので、畑の場所を聞いて向かった。


 門を出て目的に方向へ向かうと、あたり一面に畑が広がっていた。

「たしか、こちらの方向よね」

「奥に女性の人影が見えます」

 人影に向かうと、ホサキさんと同じ年齢くらいの女性が野菜を収穫していた。


「ホサキさんの奥さんですか。冒険者ギルドから収穫の手伝いに来ました」

 私が声をかけると、地面より顔を上げてこちらを向いた。

「やっと来てくれてうれしいよ。手伝いは誰かひとりかい」

「みんなで手伝いに来たから、何でも言ってね」

 奥さんは手を止めてから立ち上がって、私たちのほうへ来た。


「3人とは助かるよ。若い兄さんは荷物運びを頼めるかい。女性陣には野菜の収穫をお願いしたいから、今からやり方を教えるよ」

 最初に私とオパリルがキュウリの収穫方法を教わった。キョウリの実とツルの間を渡された道具で切って近くにある箱へ入れる。スフェキンは野菜で一杯になった箱を運ぶ役目だった。


 キョウリのあとにはナスとトマトも収穫した。人数が増えたおかげで、いつも以上に収穫が進んだと奥さんが喜んでくれた。日が高いうちに収穫が終わるとホサキさんから依頼完了のサインをもらって、新鮮なキュウリとナスとトマトを受け取った。


 スフェキンが調味料を売っている店を聞くと快く教えてくれた。冒険者ギルドへ戻る前に店へ寄って、塩や胡椒をふくめた調味料を手に入れるとスフェキンが嬉しそうな表情を見せた。


 冒険者ギルドに到着してカウンターへ向かう。

「ミクリザさん、依頼が完了しました」


「おつかれさまです。依頼完了の確認をさせてください」

「これがサインをもらった依頼書よ」

 依頼書を渡すとミクリザさんがサインを確認してから、こちらに視線を戻す。


「確認できましたので、こちらが報酬になります。初めての依頼はどうでしたか」

 オパリルが報酬のお金を受け取って鞄へしまった。

「野菜の収穫は初めてだったので楽しかったよ。新鮮な野菜ももらえて、どのような料理が食べられるのか楽しみね」


「それはよかったです。いろいろな依頼がありますので、依頼内容に不明があればいつでも聞いてください」

「ありがとう。今日はこれで帰るので、明日以降に次の依頼を受けてみるね」

 ミクリザさんと分かれて、冒険者ギルドをあとにした。


「このあとはどうしますか」

 オパリルが聞いてくる。

「野菜を使った料理が食べたいけれど、作る場所がないよね」


「広場などで勝手に料理するのはむずかしいが、ロベンダーの外に出れば可能だ」

「宿屋にお願いして料理を作ってもらうのはどうでしょうか」

 スフェキンとオパリルがそれぞれ提案してくれた。スフェキンが作る料理も食べたいけれど、今から外へ出ると食べ終わるころには日が暮れていると思う。


「今回は宿屋にお願いしたいと思う。まだ夕食まで時間があるから、お金を渡せば作ってくれるかもしれない」

 私の提案にオパリルとスフェキンも頷いてくれた。

『僕、新鮮野菜、食べたい』

「アウイト用に料理しない野菜も残すから安心してね」


 私が答えると、アウイトはうれしそうに私の周りを飛び回った。アウイトは普通に調理された料理も食べられるけれど、野菜や果物、木の実などをそのまま食べるのが好きだった。逆に肉料理は嫌いみたい。


 宿屋に着いて料理をしている宿屋の主人にお願いすると、今の時間なら平気だと引き受けてくれた。野菜とお金を渡したあとにテーブルへ移動して料理を待った。


 しばらくすると料理を運んできてくれた。

「キョウリとトマトは新鮮だからサラダにして、ナスは肉と一緒に炒めた。あとはスープとパンに葡萄酒ももってきた」

「美味しそう。さっそく頂くね」


 まずはサラダから口に入れた。歯ごたえのあるキュウリと肉厚なトマトが、少量の塩と相まって美味しさがのどを通っていく。野菜のみずみずしさもあって食べごたえもあった。アウイトには生の野菜をあげると喜んで食べている。


 となりのスフェキンは、各料理を少量ずつ口に入れている。食べているというよりも味を確認している感じだった。

 葡萄酒を飲み始めたオパリルと視線があった。

「もっと濃い葡萄酒が好みですが、水分補給で飲むにはよさそうな葡萄酒です」

「オパリルがお酒好きなのは知っているけれど、酔うことはないの?」


「わたしは水と相性がよいのか、酔った記憶はないです。でもお酒はおいしく飲むのが1番です。水分補給も終わったので、さっそく野菜を堪能します」

 オパリルがサラダに手を出すころには、スフェキンは普通に食べ始めていた。

 初めての依頼が達成できて、楽しい時間をみんなで過ごした。

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