第9話 スフェキンの実力

 冒険者ギルドで冒険者へ登録した日の夜に、宿屋へ副隊長のノナハさんが訪ねてきた。食堂の隅にあるテーブルで、私の両隣にオパリルとスフェキン、向かい側にノナハさんが座った。アウイトはテーブルの上で休んでいる。


「それで私たちに何の用事があるの?」

 最初に私が口を開いて質問した。


「先日のロックベアーとの戦闘で、自分たちの実力不足を実感した。早急に力をつける必要があるのだが、武具や人員の強化には限度がある。そこでスフェキン殿とオパリル殿に指導してもらって、少しでも戦闘の経験を積みたい」

 ナノハさんが真剣な表情で説明する。


「私たちもそこまで戦闘経験はないよ」

 地上に来て間もないので実際に戦闘経験は少なかった。それでもオパリルとスフェキンは戦闘能力が高いので魔物を簡単に倒している。


「オパリル殿の戦いをみたが、申し分のない実力だった。強い相手との訓練は自衛団の経験になるから、ぜひお願いしたい。5日後には魔力だまりの探索があって、できるだけ力をつけておきたい」

 魔力だまりの影響で、動物や幻獣が魔物や魔獣へ変化する。神々の世界でも気にかけている現象のひとつだった。


「オパリルとスフェキンの考えを聞かせてほしい」

 視線をふたりへ向けた。とくに急ぐ旅ではないし、実際に指導するふたりの意見を聞きたかった。


「わたしはどちらでも構いません」

「俺の意見が通るのなら、武術をたしなむ者として手合わせを願いたい」

 ふたりの考えが聞けたので視線をノナハさんへ戻す。


「これも何かの縁だから指導するのは平気よ。詳細はオパリルと決めてもらいたいけれど、カルスミスさんには話が通してあるの?」

「もちろんだ。カルスミス隊長は家の用事があって代わりに自分が来た」


「言葉や態度をみると、カルスミスさんは貴族ですか」

 オパリルからの質問だった。

「そういえば話していなかったが、今いるロベンダーはサイジア伯爵領で、カルスミス隊長はサイジア伯爵家の三男だ」


「有り難うございます。それでは指導の詳細を詰めさせてください」

 オパリルが中心に話を進めた。

 最終的には明日から2日間実施して、指導料として小金貨4枚をもらう。


 翌日の朝食を済ませたあとに、オパリルとスフェキンをつれて第3自衛団がいつも訓練している広場へ向かった。アウイトは近くの空を飛んでいる。

 すでに広場には自衛団の団員と思われる人がいて体をほぐしていた。人数は20名を超えていて、最初に会ったときの2倍近くの人数だった。私たちが近づくとカルスミスさんとノナハさんが近づいてくる。


「よく来てくれた。ノナハから聞いていると思うが、団員を鍛えてほしい」

「分かりました。オパリル、スフェキン、あとはよろしくね」

「わたしにお任せください」

「個人でも集団でも俺の相手に不足ない」


「それではさっそくお願いしたい」

 カルスミスさんがオパリルとスフェキンをつれて移動した。私の横にはノナハさんが待機している。


「全員、集合」

 カルスミスさんの声があたりに響き渡ると、団員が駆け足で集まった。等間隔に6列に並んで1列は3人か4人だった。


 オパリルとスフェキンの紹介が終わって訓練が始まった。オパリルは弓ではなくて短剣を使った動きの指導で、スフェキンは1対4での模擬戦を開始した。スフェキンの強さは圧倒的で、金色の装備が強さを表すように輝いていた。


「集団行動は4名が基本なの?」

 スフェキンの指導を見ながらノナハさんへ質問する。

「最小単位が4名で、魔物討伐などでは8名か12名の組み合わせが多い」


「魔力だまりの探索に行くと聞いたけれど、8名か12名で行くの?」

「第3自衛団全員の24名で行く。魔力だまりが見つかった場合は、魔力だまりを消去するために風魔法使いが数名必要となる。ロックベアークラスの魔物が複数出現しても対応できるように今回は全員で行く」


 魔力だまりがあれば、近くには強い魔物や魔獣がいてもおかしくないから、安全を考えて人数を多くするのは理解できた。


「無事に任務が終わるとよいですね。今日から3日間の訓練になるけれど、オパリルとスフェキンの強さはどうですか」

「ふたりの実力は、この街にいる冒険者のトップクラス以上だ。とくにスフェキン殿は魔獣相手でも活躍できると思う。魔力だまりの探索に、同行してもらいたいくらいだ。ジュムリア殿の回復魔法も同じくらい助けになる」


 ノナハさんと話しているうちに、オパリルとスフェキンのふたり対、12名での模擬戦が始まった。最初の何度かはすぐに決着がついたけれど、徐々に自衛団の連携がよくなってきて接戦になった。

 模擬戦が1回終わるごとにオパリルが指導していて、その内容が次の模擬戦に生きているみたい。


 途中からノナハさんも模擬戦に参加して、私は空から戻ってきたアウイトと一緒に見学していた。順調に指導が進んで2日間の訓練が完了するころには、自衛団の動きには少し切れが増して俊敏になっているのが私にも分かった。

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