第7話 領都ロベンダー

 領都ロベンダーは高い壁に囲まれていて、大きな幅のある頑丈な門と普通の門が左右にひとつずつあった。ロベンダーへの出入りは大半が左右にある普通の門で、馬車が1台通れるくらいの幅がある。


 お昼前の時間帯だけれど、右側の門には行列ができていた。

「旅人は右側の門で身分を証明してロベンダーへ入れる。左側はロベンダーから出る場合に使用させる」

 ノナハさんが教えてくれた。自衛団は特別みたいで中央の大きな門へ向かう。


 商人のサンラクさんは右側の門へ移動を開始した。サンラクさんが魔物退治のお礼に宿屋を用意してくれるので、門を入った場所で待ち合わせとなった。


「実は旅の途中で、わたしたちは身分を証明するものをなくしました。どのように対応すればよいでしょうか」

 オパリルがノナハさんへ聞いた。とうぜんながら神々の世界では地上の身分証は不要なので私たちはもっていない。


「本来なら右側の門で犯罪歴がないか魔道具で調べて、問題がなければ一時滞在証明書を発行してロベンダーへ入れる。だがジュムリア殿たちは自分たちの恩人だ。このまま正門で構わない。ただし犯罪歴がないかは調べさせてくれ」

「それで構いません」


 ノナハさんに案内されて門番がいる詰所へ入る。ノナハさんが経緯を説明してくれたので、旅人と答えたくらいで質問は終わった。球体の魔道具に手をかざすと球体が青色に光った。犯罪者は赤色に光って、私たちは全員が青色だった。


 さいごに一時滞在証明書を発行してもらった。本来は小金貨1枚必要だけれど無料となった。正式なお礼はあとで連絡するとノナハさんが話してくれた。

 ロベンダーに入って自衛団とわかれた。ただサンラクさんたちが来るまで、ノナハさんが同行してくれる。


「ただの旅人と言っていたが冒険者ではないのか。オパリル殿の腕前なら、ロベンダー所属のトップ冒険者と遜色がない」

「わたしなど、スフェキンに比べればまだまだです」


「スフェキン殿はオパリル殿よりも強いのか。冒険者になれば自衛団から指名依頼を相談したいくらいだ。依頼はともかく、冒険者ギルドへ登録すれば身分証にもなるから、旅をしていく上で損はないはずだ」

 ノナハさんの提案に対して、オパリルが私のほうへ視線を向けた。冒険者ギルドに関しては、私に判断を仰いだみたい。


「身分証があるとたしかに便利ね。規約内容にもよるけれど、旅をしながらでも問題ないのなら、冒険者になるのもよいかもしれない」

「ロベンダーで冒険者になると、どの地域まで身分証として効果がありますか」

 私が冒険者ギルドへの登録が必要と判断すると、具体的な影響についてオパリルが質問した。


「現在いるサイジア領やハイビリス王国は問題ない。冒険者ギルドは国とは別の機関が運営しているから周辺国でも大丈夫だ」

「それなら前向きに検討できます」


 オパリルが答えたときに、サンラクさんたちが近づいてきた。サンラクさんたちは護衛の冒険者4名を含めて8名だった。

「お待たせしました。まずは混まないうちに宿をとってから、今回のお礼をさせてください。それで構いませんか」

「私たちは平気よ」


「案内しますのでついてきてください」

 サンラクさんが歩き出すとそのあとに続いて進む。賑わっている通りから少し外れた場所で足を止めた。宿屋は2階建てのしっかりした作りであった。


「シルバーフラワー亭か。ここなら安心して休めるだろう」

 ノナハさんの感想を聞いているうちに、サンラクさんが宿屋の中へ入る。しばらくすると笑顔でサンラクさんが戻ってきた。


「ロベンダーにくるといつも使っている宿屋です。部屋数が多くなるので心配でしたが、無事に部屋を取れましたので中へお入りください」

「自分は帰るが、あとで礼をするためにくる」

 ノナハさんは私たちが泊まる場所が分かったので、ここでお別れとなった。


 サンラクさんに案内されて宿屋の中へ入ると、手前は食事用と思われるテーブルが並べてある。もう少しでお昼になるためか、食事をしている人もみかけた。

 奥に案内されて階段を上る。


「奥の大部屋を使ってください。3名でも充分な広さがあります」

「ありがとう。このあと冒険者として登録するために、冒険者ギルドへ行きたいのだけれど場所は知っている?」

 サンラクさんへ聞いた。


「ジュムリアさんたちは冒険者になるのですか。もちもん場所は知っていますので案内できます。もうすぐ昼食となるので、食事をとったあとで構いませんか」

「それで平気よ」


 いったん、それぞれの部屋に分かれて、荷物の整理や休憩をおこなった。私たちの部屋にはベッドが4つあって、スフェキンでも充分に休める大きさだった。必要最小限の品物しか置いていないけれど、室内はきれいで清潔感がある。


 昼食は宿屋の1階にある食堂でとった。私たちのテーブルには、私とオパリル、スフェキンにサンラクさんの4名で、アウイトは私の膝上にいる。

 テーブルの上には湯気が立ち上っている料理が、食欲をそそる香ばしい匂いを振りまいていた。


「作りたてのお肉料理と新鮮な野菜のサラダです。費用は私どもで持ちますので、遠慮なく召し上がってください」

「ありがたく頂くね」

 最初にサラダから口に入れる。みずみずしさの中に野菜本来の味わいが口の中へ広がった。お肉には香辛料が効いていて、食べやすい固さだった。


「この宿屋の料理は、美味しい上にボリュームがあって冒険者にも人気です。ジュムリア殿のお口にはあいましたか」

「お肉料理は美味しくて、ほかの料理も期待できそう」

『野菜、新鮮、おいしい』


「トウガラシの辛みが鳥肉のうまさを引き出して食欲をそそる。ジュムリア様も気に入ったようだから、トウガラシは入手しておくか」

 スフェキンは食べながら料理の分析をしているみたい。調味料が増えれば料理の幅も広がるから私もうれしかった。


「料理を気に入ってくれてよかったです。このあと冒険者ギルドに行きますが、ひとつ相談にのって頂けないでしょうか」

 動かしていた手を止めて、サンラクさんがお願いをしてくる。


「どのような相談事でしょうか」

 私の代わりにオパリルが聞いてくれた。

「しばらくロベンダーで商売をしたあとに、地元のマーザレントへ戻る予定です。ふだんと異なる魔物や魔物の群れが発生する可能性があるので、マーザレントまで護衛を依頼したいのですが可能でしょうか」


「すでに護衛がいたと思いますが平気なのですか」

「護衛の冒険者とは話し合い済みです。彼らの任務や費用は変わりません。念のために追加の護衛をお願いした次第です」


「ジュムリア様は如何しますか」

 オパリルが視線を私へ向けて聞いてくる。

 いまのところ何処に行くかは決めていない。人間との触れ合いが大事だから、せっかく知り合ったサンラクさんとの旅も面白そう。


「とくに予定は決まっていないから、日程があえば平気よ」

「了解しました。サンラクさん、護衛を引き受けますが、詳細条件を整合したあとで正式に依頼を引き受けても平気でしょうか」

 オパリルが視線を私からサンラクさんへ移動させた。


「それで構いません。今日の夜にでも条件を決めさせてください」

 旅の安全が増したためか、サンラクさんの表情が明るくなった。

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