第6話 自衛団と商隊
私たちの前にカルスミスさんが移動してきた。改めてみると整った顔立ちの美男子で、やさしい雰囲気だった。
「領都ロベンダーで第3自衛団を指揮している、カルスミス・サイジアだ。戦闘や回復の腕前は見事だった。あのままでは全滅をしていただろう。本当に助かった」
「わたしはジュムリア様の護衛のひとりで、一緒に旅をしているオパリルです。カルスミス様や自衛団の隊員が無事でなによりです」
オパリルが話し出す。誰かとの対話や交渉はオパリルが適していた。
「俺たちを助けてくれた恩人だ。堅苦しい呼び方は不要だ」
「ではカルスミスさんと呼ばせてもらいます」
いつも以上にオパリルの話し方がていねいだった。
「それでかまわない。礼をしたいが、いまは手持ちがない。ロベンダーまで一緒に来てくれないか」
「そのまえに用事をすませても平気でしょうか」
「日が暮れる前にはロベンダーへ戻りたい」
「ほかの場所でも魔物が出現しています。仲間が助けにむかっていますので、合流したいと思っています」
オパリルが魔物の出現を伝えると、カルスミスさんの顔色が変わった。横にいたノナハさんに指示を出してから、私たちのほうへ顔を戻した。
「俺たちは魔物の異変を感じて調査に来ていた。同行するから案内してくれ」
「分かりました。わたしたちはいつでも向かえます」
「出発準備をしているから、じきに移動可能だ」
自衛団の人たちは装備を確認しながら、ノナハさんの指示に頷いていた。
上空にアウイトの姿がみえると、流れるような飛び方で私の近くに降り立った。
『魔物、殲滅。人間、無事』
「間に合ったのね。これから向かうから、スフェキンに伝えてくれる?」
『了解。僕、頑張った』
アウイトはすぐに飛び立たずに私へ近寄って、体をすりつけてきた。アウイトの頭をなでると、喜んでいるようで頭を強く押し返してくる。
「アウイトが魔物を発見したおかげよ」
『スフェ、伝える』
アウイトは翼を広げて上空へ飛び立って、旋回してから移動を開始した。
「いまの青い鳥は何だ? ジュムリアは鳥と会話ができるのか」
上空から視線をもどすと、カルスミスさんの驚いた顔があった。
「一緒に旅をしている仲間で、鳴声と態度で何を訴えたいのか分かります。もうひとつの場所にいた魔物は殲滅したので、慌てなくても平気です」
オパリルの対応からカルスミスさんが偉い人と分かったのでていねいに答えた。オパリルの表情をみるとほっとしているので、私の対応はあっていたみたい。
「疑うわけではないが、本当なのか」
半信半疑のようだった。
「わたしたちの仲間もいますので、嘘をつく理由はありません。心配なら早めに移動も可能です。どうするかはカルスミスさんにお任せします」
私のかわりにオパリルが答えてくれた。状況説明や誰かの交渉などは、オパリルに任せれば安心だった。
「普段はこのあたりで見かけない、ロックベアーの魔物が出現した。数日前から動物や魔物の行動に異変を感じているから、念のために早めに確認したい」
「場所は、わたしがわかりますので案内します」
オパリルが答えるとカルスミスさんが頷いた。
「ジュムリア殿、ロックベアーの緑魔石を集めた。受け取ってくれ」
ノナハさんが私たちの前にもってきてくれた。
「私たちがもらっても平気なの?」
「オパリル殿の活躍がなければ全滅していた。カルスミス隊長も同じ考えだ」
オパリスに視線を移すと頷いていた。どうやらもらっても平気みたい。
「ありがたく頂くね」
ノナハさんから緑魔石を受け取ってオパリルに渡す。
オパリルが閉まったのを確認すると、私とオパリルを先頭に移動を開始した。私たちのうしろにはノナハさんを含めた3名がいて、少し離れてカルスミスさんと残りの自衛団がついてきた。
「動物や魔物の異変はスフェキンの威圧が原因よね」
オパリルのみに聞こえる小声で話した。
「魔物の暴走によるスタンピードの予兆でなければ、その可能性は高いです」
「スフェキンも反省していたみたいだから、スタンピードの予兆かどうかだけを注意してほしい。もしスタンピードだとすると大変だからね」
「分かりました。自衛団にそれとなく聞いてみます」
ほどなくしてスフェキンとアウイトがいる場所へと到着した。すでに魔物の姿はなくて、襲われた馬車の状態を確認している。
アウイトが私の近くまで飛んできて、スフェキンと男性がひとり、私たちのほうへ歩いてくる。男性は少し小柄で太っていて、魔物の襲撃できびしい表情をしているけれど、人のよさそうな雰囲気だった。
「ジュムリア様、魔物は問題なく倒せた。冒険者の護衛もいたから、かすり傷程度の怪我しかしていない」
スフェキンが状況を教えてくれた。
「大きな怪我の人がいなくてよかった」
少し小柄な男性が私の前に来る。
「ジュムリアさんがスフェキンさんのご主人と聞きました。私は商隊の代表で商人のサンラクです。ブルーウルフの群れに襲われているときに助けて頂きました。荷物も無事で被害は最小限にすみました」
サンラクさんが深くお辞儀する。
「スフェキンが間に合ってよかった」
「別の場所でも魔物がいたとスフェキンさんから聞いたのですが、うしろにいる自衛団と関連するのですか」
サンラクさんが私たちのうしろに視線を向けた。私も体を動かしてうしろを向くとカルスミスさんがこちらへ歩いてくる。
「領都ロベンダーで第3自衛団を指揮している、カルスミス・サイジアだ。魔物の異変を感じて調査に来ている。状況を教えてくれ」
「カルスミス様、サンラク商会のサンラクと申します。ロベンダーへ向かっている途中に、ブルーウルフの群れに襲われました。このあたりは魔物が少ないはずなので驚いています」
サンラクさんはていねいに答えていた。
「被害はどのようになっている?」
「ジュムリアさんの護衛に助けてもらって被害は最小で済みました。もうすぐ移動ができると思います」
「わかった。準備が出来たら声をかけてくれ。一緒にロベンダーへ行く。ジュムリアたちもそれで構わないか」
サンラクさんが聞いてくる。
「私たちもロベンダーへ向かう予定ですから大丈夫です」
「わかった。移動中は自衛団と冒険者で対応するが、何かあれば協力してくれ」
「いつでも声をかけてください」
商隊の準備が整うと移動を開始した。ブルーウルフが落とした青魔石は、商隊の護衛もいたので半々に分けた。
移動中にオパリルが魔物について自衛団へ聞いた。自衛団の話では統一感がない魔物の移動であるため、スタンピードの予兆ではなくて、何かに怯えて突発的に逃げたとの見解だった。たぶんスフェキンの威圧が影響していたみたい。
移動中は弱い魔物が現れたくらいで、半日後には領都ロベンダーへ到着した。
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