第5話 オパリルの実力

 アウイトの報告で人間と魔物が戦っていると知った。

「ジュムリアちゃん、どうしますか」

 いつもと異なってオパリルの表情は真剣だった。


「魔物は私たちにも危険な存在だから、もちろん人間を助ける。スフェキンはアウイトと一緒に先へ行ってほしい。私はオパリルと追いかけていく」

「俺の判断で魔物を倒しても平気か」

 質問をしながらも、スフェキンは剣と盾を手にとった。


「どうするかはスフェキンに任せる。人間の救出を忘れずにね」

「わかった。アウイト、行くぞ」

 アウイトのあとをスフェキンがついていく。


「ジュムリアちゃん、移動の準備ができました。すぐに追いかけられます」

 スフェキンと話しているあいだに、片付けをしてくれたみたい。

「私も平気よ。案内をお願い」

 オパリルが私の前を走り出した。


 荷物の重さを感じさせない動きで、私の速度に合わせてくれた。

「すこし距離があると思います。息が上がったら、遠慮なく言ってください」

 神の能力がない私は、一般的な人間と同じくらいの体力しかない。

 オパリルやスフェキンは人間離れした強さがあった。


「まだ大丈夫よ」

 街道にでると走りやすかったけれど、スフェキンの姿はみえない。

 急にオパリルが立ち止まって左側の遠くをみている。


「別の場所でも人間と魔物の気配がします」

「アウイトが探した場所からは離れているところ?」

「距離があります。アウイトの場所はスフェキンのみで平気でしょう」

 オパリルが現状を的確に教えてくれた。

 言葉には出していないけれど、私に判断を求めているとわかった。


「もうひとつの場所にいる人間を助ける」

「わかりました。でもジュムリアちゃんの安全がいちばんです」

 左側の木々が茂っている場所へむかった。


 夢中で走っていると、奥から危機感を感じる声が聞こえてきた。

「荷物は私がみているから、人間の手助けをしてほしい」

「弓矢は人間にも危険なので、短剣で魔物を倒してきます」

 荷物をおいてオパリルが走り出すと、すぐに視界から消えた。


 私も遅れないように動いて、視線の先にオパリルの姿をとらえた。オパリルは人間よりも大きな魔物を簡単に倒している。倒された魔物は霧のように消滅した。

 オパリルのうしろから魔物が襲いかかる。


「あぶない」

 思わず声が出てしまった。でも私の心配は杞憂におわった。

 オパリルが振り向きざまに短剣で魔物を倒した。魔物は霧のように消滅すると、地面には魔石のみが残る。


「ジュムリアちゃん、魔物はすべて倒しました。ただ彼らに怪我人がいます」

 オパリルのうしろに視線をむけた。10名程度のうち半数くらいが倒れている。治療をしているけれど、人手が足りないのは明白だった。


「私も手伝ってくる」

 荷物をおいてから、介抱している男性の元へむかった。男性は高身長の30歳くらいで、倒れている男性にポーションを飲ませている。私に気づいたみたい。


「ロックベアーの魔物にやられた。回復ポーションをもっていないか」

 体格がよくて怖そうな顔つきだけれど、真剣な表情で訴えかけてきた。

「回復ポーションはないけれど、身体回復の魔法が使える」


「本当か。あとで礼はする。怪我を治してくれないか」

「そのつもりよ。回復は任せてちょうだい」

 覚えたばかりである宝石の能力を、倒れている男性に向かって『エメラルド開放』と心の中で念じた。


 倒れている男性の周囲に光の粒子が出現して、怪我を癒やしていく。見た目でもわかるほどに怪我が消えていった。怪我をしていた男性の息が穏やかになって、うっすらと目をあけた。

 解放している男性よりも若くて、オパリルくらいの年齢にみえる。金色に近い茶色の髪が目をひいた。


「無詠唱でこの威力とはすごい。女神ファティナル様の加護でももっているのか」

 治療をしていた男性が驚いている。怪我の回復と私の顔を交互に見ていた。

「魔法の訓練を頑張っているからよ」

 真実は言えないから、それらしい言葉で濁した。


 倒れている男性が私の手を握ってきた。

「ありがとう。もう大丈夫だ」

 かすれた小さな声だったが、もう平気みたい。

「助かってよかった」

 実際の怪我に初めて宝石の能力をつかって、自然と声がもれた。


「ほかの怪我人もみてほしい」

 治療をしていた男性が私の顔をじっとみつめた。

「怪我のひどい人から案内をお願い」

 男性の顔が明るくなった。男性のあとに続いて、怪我人を治していく。統一感のある服装で、組織として活動をしているようだった。


 途中からオパリルが合流して、ちかくには魔物がいないと教えてくれた。さいごに案内をしてくれた男性も回復させて、全員の無事が確認できた。

「助かった。自分はノナハで、第3自衛団の副隊長だ。名前を教えてほしい」


「私はジュムリアで、となりの彼女がオパリルよ」

「ジュムリア殿とオパリル殿か。女性とは思えない腕前で見事だった」

「旅の途中で、ぐうぜんに魔物を見かけて駆け寄ったのよ」

「カルスミス隊長に会ってくれないか」

 オパリルと一緒に、ノナハさんのあとに続いて移動を開始した。


「カルスミス隊長。自分たちを救ってくれた、ジュムリア殿とオパリル殿です」

 ノナハさんに案内された人物は最初に怪我を治した男性で、他の人たちに指示を出している。私たちに気がついたみたい。

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