第4話 癒しのエメラルド

 オパールをネックレスにつけてから数日がすぎた。普通なら街や村に着きそうだけれど、まだ街道を移動している。理由は宝石を見つけたからで、いまは街道ちかくの木陰に座って休憩していた。


「アウイトのおかげで、移動中にエメラルドの原石が見つかった」

『僕、探す、上手』

「宝石はいくつあっても平気だから、また見つけたら教えてね」

 目の前に降りたアウイトをなでてあげた。うれしそうに頭をすり寄せてくる。


「ジュムリアちゃん、エメラルドの完成です。深みのある緑色が魅力的です」

 原石の加工が終わったみたい。手渡された大小さまざまなエメラルドが、太陽光でかがやいている。

「すてきな色合い。原石の研磨でたくさん水を使っていたけれど、やはり水があるときれいに仕上がる?」


「原石のすべりがよくなって、冷却もできるので必ず必要です。地上でも水を呼び出せる能力が使えて助かりました」

 オパリルが空に向かって水を噴出させた。水しぶきが太陽光で反射してオパールのような七色をみせた。人間がみたら魔法と錯覚すると思う。


「基本能力は問題なく使えるみたいよ。飲み水にも使えるから便利よね」

「ジュムリアちゃんの旅に役立つのでうれしいです」

「宝石の加工をふくめて、オパリルが一緒で助かっている」


『僕、役立つ?』

 アウイトが移動してきて頭を傾ける。昔から甘えん坊だった。


「アウイトがいないと、原石が見つからないから役立っているよ。もちろん、一緒にいるだけで私も幸せな気分になれる」

 アウイトが私の横へきて体をすり寄せた。しばらく同じ動作を繰り返しながら、翼を広げて気持ちよさそうに飛び立った。


「どのエメラルドをネックレスに留めますか」

 オパリルが聞いてくる。

「たくさんあって目移りする。ネックレス用を探すから待ってね」

 エメラルドは形や大きさ、色の濃淡も異なって個性的だった。エメラルド成分以外の内包物や小さな亀裂があるけれど、それもエメラルドらしさになる。


「長方形に外周が階段状になっているカットはすてきだけれど、内包物や亀裂が目立ちやすいよね。でもエメラルドをすてきにみせている」

「お気に入りは見つかりましたか」

 オパリルは私がどの宝石に決めるのか、気になっているみたい。


「どのエメラルドもすてきで迷うけれど決めた。このエメラルドがいちばんよ」

 大きさよりも色合いと透明感できめた。内包物や亀裂がほとんどなくて、緑色の空間に吸い込まれそうな錯覚まで覚える。ネックレスを取り外して、エメラルドと一緒にオパリルへ渡した。


「エメラルドはどこに留めますか」

「ネックレスを着けた状態の私からみて、オパールの左側でおねがい。つぎの宝石はオパールの右側で、胸元から徐々に上へ増やしていくつもり」


「すこしお時間をください」

 ネックレスとエメラルドを受け取ったオパリルは、少し離れた位置へ移動した。道具を取り出して加工を始めた。


 木の根元に座りながらオパリルの姿を眺めていると、スフェキンが両手にカップを持って近寄ってきた。スフェキンの金色装備は太陽光で反射して目立っている。片方のカップを受け取った。


「ジュムリア様、果実を絞った飲み物だ。旅では水分補給が大事だ」

 うっすらと赤みがかった飲み物で、小さな果実が浮いている。

「ちょうど喉が渇いていたからうれしい」

 カップを傾けて少しずつ飲んだ。酸味があったけれど飲みやすかった。


「冷たいともっと美味しくなる」

 スフェキンが教えてくれる。

「設備が整った場所に着いたら、また飲ませてね」


「街中なら可能と思うから楽しみにしてくれ。そうだ、街へ着いたら調味料をそろえたい。料理の味に幅が出てきて料理の種類も増やせる」

「それは重要ね。もう少しで村か街へ着くと思うから、優先で探したい」

 おいしい料理がいろいろと食べられるのはうれしい情報だった。のこりの果実水を飲んでいると、オパリルが立ち上がって近寄ってきた。


「ジュムリアちゃん、お待たせしました」

 オパリルからネックレスを受け取った。

「すてきな感じにできている」

 ネックレスを着けると、エメラルドが一瞬だけ強い光を放った。光が収まると同時に、エメラルドの能力が頭の中に流れてきた。


「エメラルドの能力は発揮できましたか」

 オパリルが聞いてきた。

「エメラルドの能力である身体回復が開放されたよ。どのくらいまで怪我などを治せるか不明だけれど、重宝される魔法と同じ効果だから、旅にはかかせないよね」


「怪我などをしないのがいちばんですが、早めに覚えられて運がよかったです。ジュムリアちゃん、練習と思ってわたしへ唱えてみてください」

 いざというときに慌てないよう、雰囲気を知っておいて損はない。


「心の中で念じて試してみる」

 オパリルに手をむけて、意識を集中させながら『エメラルド開放』と念じた。オパリルの周囲に光の粒子が出現して、淡い感じの光はしばらくすると消えた。


「体に温かさが満ちました。怪我をしていれば、効果を発揮したと思います」

「無事にできたみたいね」

 宝石能力の確認が終わったときに、アウイトが空から急降下してきた。


『人間、魔物、戦闘中』

 私たちのあいだに緊張が走った。

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