第3話 幸運のオパール

 楽しい食事の時間もおわって、ネックレスとオパールをオパリルへ渡した。オパールは水分を含んでいる、めずらしい宝石でもあった。


「発色もよくて大きなオパールです。何処につけましょうか」

「最初の宝石だから、中央にお願い」

「すこしお待ちください」

 オパリルが道具を取り出して、加工を始めた。器用に指を動かして、宝石を留めていく。さいごに出来映えを念入りに確認していた。


「何度みても見事な腕前で、安心してみていられる」

「このくらいは楽な加工です。とくにオパールはわたし自身でもあります。失敗するはずがありません。完成しましたのでみてください」

 ネックレスを受け取って身につけた。


 七色に輝くオパールが一瞬だけ強い光を放った。光が収まると、頭の中にオパールの能力が流れ込んできた。

「みんなのおかげで無事にジュエリーが仕上がって、オパールの能力である幸運上昇が開放されたみたい」


「最初の宝石となります。実際に唱えて試してはいかがでしょうか」

 オパリルが提案してくる。たしかに能力は開放されたけれど、どのような感じで開放されるのか試す価値はあった。


「この能力は品物へ付与するから、何か適当な品物はある?」

「わたしの弓矢に付与してみませんか。幸運の効果で命中率がどの程度上がるか調べてみたいです」

「オパリルの腕が上がれば、食料調達も楽になる」

 スフェキンも付与を試す品物は弓矢で問題ないみたい。


「さっそく試してみるね」

 オパリルに用意してもらった矢へ『オパール開放』と念じた。小さな七色の球体が出現して矢へ吸い込まれていく。これでオパールがもっている幸運向上の能力が付与される。最終的には50本以上の矢に能力を付与した。


「宝石の能力開放はどうでしたか」

「念じるだけで開放できたから簡単に使えたよ」

 思い通りにネックレスを使用できて、素直にうれしかった。ファティナル様から頂いたネックレスを大切に使っていきたい。


「実際に矢を放って試してみます」

 オパリルが何本もの矢を放って、付与の有無による違いを比較する。さらに弓にも付与して検証をおこなった。

「付与によって命中率が上がったように見えるけれど、体感はどうだった?」

 オパリルに聞いた。


「付与がない状態では10回に2回の命中率でしたが、弓と矢の両方に付与した場合は10回に3回くらいです。命中率では気持ち程度の向上ですが、体感的に的へ近づきましたので能力の効果はあったと思います」


 幸運上昇という分かりにくい効果で継続時間が不明だけれど、体感できるのならネックレスの使い方はあっているみたい。

 オパールの能力は使い道がむずかしいけれど、何かのお礼にジュエリーへ付与して渡せば喜ばれそう。人とのつながりにもなるから私の目的にもあっている。


「効果があってよかった。でもすべての矢に能力開放は時間がかかるから、消費する品物にはむずかしいみたいね」

「がんばって弓の命中率をあげます」

「オパリルならきっと上達すると思うよ」

 気長な旅だから、ゆっくりと時間をかけても問題ないと思っている。


「このあとはどうしますか」

 宝石能力開放の検証が終わってオパリルが聞いてきた。

「人間と交流するために街を目指したい」


「地上のお金は金貨1枚だけですので、早めにお金を手に入れたいです」

 神々の世界では地上のお金は不要なので、趣味で持っている程度だった。

「金貨1枚は、どのくらいの価値があるの?」

「冒険者が普通の宿に泊まって1日食事を3回して、20日から30日くらいでしょうか。いまは3人いるので金貨1枚では10日も持ちません」


「それは大変ね。食事は1回どの程度の価格なの?」

「冒険者の食事なら銀貨1枚くらいだと思います。貨幣は銅貨、小銀貨、銀貨、小金貨、金貨と価値が上がって、それぞれ10枚で上の貨幣に変わります」

 いくつかの種類があるから、覚えておかないと大変になる。


「銅貨10枚で小銀貨1枚ということね」

「その通りです。スフェキンもお金の価値にうといですから、交渉やお金のやりとりはわたしが行います」


 地上の常識に関してはオパリルが一番詳しかった。オパリルにお願いして、お金の価値を私とスフェキン、アウイトに説明してもらった。

「まだ不安はあるけれどお金の価値がわかった。そろそろ街を目指しましょう」


『僕、街、探す』

「楽しみにしているね」

 アウイトが顔をすり寄せてきたあとに、翼を広げて上空へ飛んだ。


「俺も気合いを入れるか」

 スフェキンが剣をかかげて、大声を上げる。あたりの空気が振動して、遠くから動物や魔物たちの鳴声が聞こえてきた。


「スフェキン、威圧が強すぎます。動物や魔物たちが驚いて逃げています」

 オパリルだった。私以上に眷属たちは、気配を感じるのが上手みたい。

「旅が安全になるだろ」

 スフェキンは気にしていない様子だった。


「魔物を倒すと手に入る魔石は貴重な旅の資金です。むやみに退ける必要はありません。それとも街中で、ジュムリアちゃんを野宿暮らしにさせますか」

「ジュムリア様の安全が最優先だ。次回は気をつける」

 私たちの中ではオパリルが、いちばん常識をもっていた。


「話はまとまったみたいね。みんなと一緒なら野宿も平気よ。そろそろ街を目指したい。アウイト、案内をお願い」

 アウイトが目に見える高さまで降りてきて、私たちは草原を進みだした。

 地上には、きれいな宝石とおいしい食材や食べ物があった。人間と触れ合いながら地上を満喫すれば、いつかは神々の世界へ戻れる。

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