第2話 料理と仲間たち

 地上へ追放されてから数日が経過した。まだ人間には会っていないけれど、宝石との出会いがあった。


「いつまでも眺めていられるほど、すてきな宝石よ。お気に入りもみつかった。みんなの協力でオパールを手に入れられて、遠くまできた甲斐があったよね」

 山をひとつ越えた先で、いまは森から外れた草原にいる。晴れた青空に心地よい風が通り抜けていた。大きめの石に座って、手元にあるオパールを眺めた。


「ジュムリアちゃんのために、原石を研磨して宝石に仕上げました」

「オパリルの研磨技術はいつみてもすごいよね。どのオパールもすてきよ」

「喜んでもらえて、わたしはうれしいです」

 目の前に座っているオパリルが目を細めた。


 大人に成り立てくらいの私より、少し年上の20歳くらいの美人で笑顔も似合っている。眷属でありながら、昔から私を妹あつかいにするけれど、嫌ではなかった。


『僕、原石、発見。ジュム様、嬉しい?』

 頭上で声が聞こえた。同じく眷属のアウイトで、私たち以外には鳥のさえずり声に聞こえる。視線をあげると、きれいな青い翼をつかって優雅に飛んでいた。


「オパールが手に入ってうれしい。アウイト以上に、原石を見つけるのが得意な人間や動物はいない。つぎの原石も楽しみにしているね」

『次、たくさん、探す』


 アウイトが目の前に降りてきた。両手に乗るくらいの大きさだった。私の仲間とわかるように、足にはミスリルで作った緑色のリングがついている。ふさふさの体をなでると、うれしいのか顔をすり寄せてきた。ほのぼのとした時間だった。


 お腹を満足させる匂いが鼻を刺激した。

「ジュムリア様、シルバーラビットのステーキだ。冷めないうちに食べてくれ」

 スフェキンが私たちの前に料理を運んできてくれて、アウイトには木の実と野菜だった。一緒にいる最後の眷属で、体格がよくてオパリルよりも少し年上にみえる。私を守ってくれる戦士でもあった。


 渡された料理のつけあわせはキノコで、香ばしさと湯気が食欲をそそった。

「地上に降りてきて間もないけれど、うわさ通りに地上の食材はおいしい。もちろんスフェキンの腕前が、私の好みにあった料理へと仕上げてくれる」


「俺なら、どの食材でも料理可能だ。冷めないうちに食べてくれ」

 スフェキンが地面に座ると全員がそろった。

「さっそくもらうね」

 最初にシルバーラビットのお肉から口にいれた。


「わたしが狩ったシルバーラビットの味はどうですか」

 オパリルが覗き込むように聞いてきた。

「お肉が口の中に広がって、何枚でも食べられるくらいおいしい」


「ジュムリアちゃんの笑顔がみられて、何度も矢を放った甲斐がありました。弱い動物だったのですが、もっと弓の命中率をあげたいです」

「あせらずに頑張って」

 私の言葉に頷きながら、オパリルも料理に手をつけた。


 茶色と赤色を基調とした革系装備は、オパリルの姿に合っていた。腰に短剣と脇には弓がおいてある。まだ慣れていないのか弓は苦手みたい。


「魔物相手でも弓では苦労しました。弓で倒せたのは2種類の魔物を1匹ずつで、緑魔石と青魔石がひとつずつしか手に入りませんでした。短剣ならたくさんの魔石を入手できたはずです」

 オパリルが悔しそうに話す。


 地上にいる魔物は動物が魔力だまりの影響で凶暴化した生きものだった。呼び名は動物の時と同じみたいだけれど、赤い目と赤い角が生えて見た目で違いがわかる。倒したあとも魔物は魔石を落として消滅する。


 幻獣が凶暴化した魔獣は脅威で、オパリルとスフェキンがいれば平気だとは思うけれど、近寄らないほうがよい相手ではあった。


「時間はたっぷりあるから慌てなくても平気よ。ところで魔石は色で価値が違うのよね。緑魔石と青魔石はどちらの価値が高いの?」

「緑魔石のほうが価値は高いです」

 オパリルは話ながら魔石を取り出してみせてくれた。受け取った緑魔石と青魔石の大きさはどちらも小石くらいで、色以外に違いは見当たらない。


「ほかにはどのような色があるの?」

「価値の高い順に、白、赤、黄、緑、青、黒魔石となります。白と赤魔石は魔獣からのみ出現しますが人間ではまず倒せないでしょう。黄魔石の魔物も非常に強くて、出回る魔石はほとんどが緑魔石以下です。価値が高い魔石ほど威力が高くなります」


「たしか魔石は人間たちが有効に使っているのよね」

「武具や道具に魔石が使われます。とくに武具は魔物に対して有効です」

 種類や用途が分かったので、手に持っていた魔石をオパリルへ戻す。


 魔石の話題が終わって食事の続きを始める。美味しいお肉が口の中へ広がった。

「今日は力のつく味付けだが、ジュムリア様の口には合っていたか」

 スフェキンは確認のためか聞いてきた。金色で光沢のある鉄系装備で身を包み、横には剣と盾があった。屈強な戦士だけれど料理の腕も一流だった。


「山歩きで疲れていたから、ちょうどほしかった味わいよ。スフェキンには原石の採掘もしてもらったけれど、疲れていない?」

「原石の採掘くらいなら楽勝だ。まだまだ料理もたくさん作れる」


「つぎはデザートが食べたい。このまま、食材を食べ尽くす旅も面白いよね」

 まだ見ぬ地上の食材を想像して、青空の彼方をのぞいた。

「料理で釣られてはいけません。ジュムリアちゃんは、食べ物になると見境がなくなるのは悪い癖です。本来の目的は多くの人間とふれあうことです」


「覚えているよ。料理を食べ終わったら、オパールをネックレスに留めてほしい」

「わたしに任せてください」

『ネックレス、楽しみ』

「アウイトもネックレスの変化が楽しみなのね。私も宝石が増えればうれしい」


 自分の胸元へ手を当てた。いまはプラチナでできたチェーンのみで29個の空枠があった。この空枠に私たちが作った宝石を留めると、魔法みたいな力が使える。

 私が本来持っている宝石への能力開放を、ファティナル様たちが作ったネックレスが擬似的におこなってくれる。

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