神々に愛されて地上界へ追放された ~宝石女神は気ままな旅を満喫する~

色石ひかる

第1話 消滅回避で神界追放

「宝石の女神ジュエジェムリアを、神々の世界から追放します。ジュムリアと名乗って地上で過ごしなさい。地上では神の能力は使えませんが、ジュエジェムリア自身の消滅は回避できます」


 ファティナル様が目の前にいる。いつもはやさしく語りかけてくれるけれど、正式な面会のため命令口調だった。光に包まれた真っ白な空間は神々の世界でも特別な場所で、私とファティナル様がいるだけだった。


「自然・豊穣の女神ファティナル様、私は消滅せずに助かります。私を支えてくれた眷属の宝石たちも、喜んでいると思います」

 ふだんは気軽な言葉を発しているけれど、いまは特別な時間だった。


 私の信者は年を追うごとに減って、私自身の消滅は避けられなかった。私だけではなくて、眷属の宝石たちも消滅してしまう。救われる道があるのはうれしい。


「わたしをふくめた3大神の決定です。ほかの神々もジュエジェムリアの消滅を望んでいません。いつか神々の世界へ帰ってくるのを待っています」

「信者を増やせば戻れるのでしょうか」


「確実なのは信者増加ですが、人間とのふれあいでも効果があります」

「人間との交流なら、おいしいと噂されている地上の食材をもらって、料理にして堪能できそう。私自身の消滅も免れて、まるでご褒美みたい」

 おいしい食べ物を想像しながら、思わずファティナル様の手を握ってしまった。ファティナル様の顔を見ると、困っているような表情だった。


「行動と口調を改めなさい」

 いまの状態を思い出して、手を離して頭を下げた。

「申し訳ありません。神々の世界へ戻れるように人間とふれあいます」


「気を引き締めて、地上で過ごしなさい。地上の姿はわたしの意思で、人間の若い女性にします」

 ファティナル様の右手が私の額にふれた。体内に魔力が流れ込んできて、体が生まれ変わろうとしている。ほどなくして魔力の流れがおさまった。


 目の前にクリスタルを出現させて、あらたな姿を確認した。

「以前の面影はありますが、大人に成り立ての女性にみえます」


「長い黒髪と、すみきった青い瞳はジュエジェムリアの特徴です。ジュムリアになっても必要と判断しました。かわいらしい顔立ちに仕上がって満足です」

 クリスタルの前で体の向きをかえて、みえる範囲を確認した。見た目だけではなくて服装も変わっていた。


「私も姿や服装を気に入りました。青色と白色で表現された服は、まるで青空のようにすてきです。スカートもちょうどよい長さで、全体的に動きやすいです」

 ドレスのような派手さはないけれど、地上では過ごしやすそうだった。ファティナル様も、私の感想に満足しているみたい。


「喜んでもらえて、考えた甲斐がありました。神の能力が使えないジュエジェムリアのために、わたしたち3大神からの贈りものです。受け取りなさい」

 出現したネックレスが、空中に浮きながら私の元へ寄ってきた。かがやきの強い白色は、みなれた地金で、手を伸ばしてネックレスをつかんだ。


 チェーンには同じ間隔で空枠が29個もあった。首のうしろに手を回してネックレスをつけると、1番使いやすい胸元までの長さだった。

「プラチナは気品があって目を引きます。アダマンタイトの青色もきれいですが、プラチナはどの服にも使えます。空枠に宝石を留めて完成させるのでしょうか」

 いまのネックレスは中途半端な感じだった。


「ジュエジェムリアの考えどおりで、地上にある宝石を留めれば、宝石の能力を限定的に開放できます。自分たちで発見と採掘と加工した宝石のみ留めなさい。宝石名のあとに開放と念じると、能力が解き放たれて地上の魔法に似た効果を発揮します」

「地上の生活で楽しみが増えました」


「ジュエジェムリアのみが使えて、わたしたちの加護があるネックレスです。持ち去られてもジュエジェムリアが願えば、いつでも手元に戻ります」

 3大神の加護がある品物は、存在しないほどの貴重さだった。それほどまでに私を気にかけてくれて、素直にうれしかった。


「大切に使います。ファティナル様たちの心遣いも忘れません」

「何か望みはありますか。できる範囲で叶えましょう」


「ひとりでは寂しいので、眷属たちを一緒に連れていきたいです」

 大好きな眷属たちと一緒に地上で生活ができるのなら、神でなくなっても暮らせる気がした。宝石の女神としての加護も、私が消滅しなければ存在し続けられる。わずかに残っている信者たちにも、悲しい思いをさせなくてすむ。


「眷属の宝石は3体のみを許可します。基本能力のみ継承可能としますが、地上の動物や魔物相手には余裕でしょう。見た目は地上の人間か動物が条件です」

「その内容で充分です。地上で楽しく安心して暮らせます」

「わたしは姿を消します。わたしが戻る前に地上へ連れていく眷属を決めなさい」

 ファティナル様が消えると、真っ白な空間には私のみとなった。


「私自身の消滅が回避できてよかった。ファティナル様を待たせては悪いから、すぐに連れていく眷属を決めたい」

 頭の中に眷属たちを思い浮かべた。


 ネックレスを活用するには宝石を作れる眷属が必要で、地上の食材をおいしい料理にできる眷属も選びたい。

「宝石と料理、旅も快適にしたい。連れていく眷属たちは、あの3体で決まりね」

 最初に出現させた宝石は七色に光っていて、見る角度で色や模様が変化する。宝石の中に幻想的な空間がみえる、オパールのオパリルを空中に出現させた。


 ふたつ目は圧倒的な存在感をしめす力強い光が特徴で、黄緑色のきらめきがすてきなスフェーンのスフェキンだった。

 最後は小さな宝石で、青色のかがやきは海の神秘さを思い出させる。サファイアと異なった色合いが印象的なアウイナイトのアウイトを呼び出した。


「眷属たち、姿を変えて」

 オパリルは人間の女性へ変化した。赤髪のポニーテールが似合っている。

「わたしが地上で補佐します。安心してください」

 オパリルがまっさきに挨拶してくれた。つづけてスフェキンが私の前に立った。人間の男性で、黄色と緑色の髪が印象的だった。


「魔物と料理は俺にまかせてくれ。安全な旅と地上の食材を堪能させてやる」

 アウイトは青い鳥となって、私のちかくを旋回する。

『僕、飛ぶ、楽しい』

 もっていく道具を含めた準備が整うと同時に、ファティナル様が姿をみせた。


「神々の世界から追放します。ジュエジェムリアも眷属たちも地上での消滅はないですが、気をつけて行ってらっしゃい」

 最後はいつものような、やさしい口調だった。ファティナル様に抱きしめられたあとに、地上へと降り立った。

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