第10話:真夜中のナイチンゲール。
僕は以前、扁桃腺の切除手術で病院に一週間ほど入院してたことがある。
入院患者には担当の看護師さんがついてくれる。
特に今回の入院でお世話になった看護師の
自分の名前が、あまり好きじゃないと言っていた真夜ちゃん。
人から
「真夜中に生まれたの?ってかならず聞かれる」
って・・・
「真昼間に生まれてるんだよ、私」
って笑いながら僕に言った。
真夜ちゃんが出勤してる日の朝は、かならず彼女が来てることが分かる。
ひときわ、ナースステーションがにぎやかだからだ。
彼女がいない日のステーションは静か・・・。
彼女が来てる日はステーションでの笑い声や話し声が病室まで聞こえて来る。
元気で明るくて、よく通る声・・・そしてよくしゃべる。
だから、
「ああ、今日は来てるんだな」
って分かる。
僕の病室のカーテンを開けて顔を見せる時は
「まいど」
って入ってくる。
彼女の口癖は
「あいよっ」
「眠れないから眠剤出してくれる?」
って言うと、かならず
「あいよっ」
って小気味好い返事が返ってくる。
出て行く時は
「また来るね・・・何かあったら言ってね」
って敬礼してステーションへ帰っていく。
たまに違うことを言う時もあるが、だいたい決まってこのパターン。
今回の入院で昼も夜中も献身的に僕の面倒を見てくれた真夜ちゃん。
酒はやたら強いらしい。
採血する時
「アルコール消毒大丈夫?」
って聞くから
「それは大丈夫だけど、飲むほうのアルコールはダメ」
って言うと
「私、いくらでもイケるよ」って言った。
僕と反対。
「僕は動機が激しくなって苦しくて飲めなくなるんだ」
って言ったら
「私はどこまでも平気」
って・・・。
呑兵衛な真夜ちゃんでも、飲みたくない時もあるらしく、そういう時は
わざと車で出かけて行くらしい。
でも、最近忙しくて、飲みにいけてないって言ってた。
「疲れてるから家に帰って、お風呂の中で死んでるね」
って言ってた。
とにかく話してると飽きない。
入院してるにも関わらず、楽しい時間を僕に与えてくれた真夜ちゃん。
だから一週間なんてあっと言う間。
そんなに献身的にお世話してくれたら好きになっちゃうよね。
でも残念ながら彼女は既婚者なんだって・・・子供もいるんだって。
それで僕の淡い恋は退院とともに終わった。
つづく。
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