第3話

 騎士が南へ行けば魔女は揶揄からかいながら付いて行き、

北へ引き返せば嫌味を浴びせつつも手伝った。


 勿論、二人が共に戦う事もあった。

封印されし治癒の魔術や薬の製法などを求めて、危険を顧みず迷宮攻略や魔物退治に乗り出す騎士。

魔女はその頭脳や援護によって彼を幾度も救った。

その成果が苦労に見合わぬものだとしても、騎士は次を探し、魔女もそれに続いた。




 騎士はこれまで仲間というものを持った事が無かった。

魔女が仲間と言えるかは定かでないものの、治癒魔法や薬の製法を求めて旅する中、彼女が心強いと思う事もしばしば。

言ってしまえば大剣と大盾を振るうしか能が無い彼は、魔女の知恵と工夫に随分助けられたのだ。

また、誰かが一緒に居るだけでも、孤独と重責から成る心労が幾らか紛れる。



 魔女の方も、騎士のことをいけ好かないと思いつつも、つい翌日も、その翌日も付いて行きたくなるのだった。

最初は何日かの退屈凌ぎになればと考えていたのに、気付けば未だかつて無いほど特定の一人に夢中になっている。

彼女は無意識のうちに、人の役に立つ事で喜びに近いものを感じていたのだ。




 二人はやがて──いや、ついに理想の奇跡を手に入れた。

ぶっきらぼうな騎士も、このときだけは喜びを露わにした。

無垢な少年のような笑顔で魔女に


「ありがとう」


と言ったのだ。

魔女は照れて、


「わ、私が手伝ってあげたんだから当然よ!」


などと訳の分からないことを言っていた。




 ところが、それを持ち帰った頃には聖女の墓が立っていた。

しかも、騎士との約束で聖女を診ていた筈の神官どもは、彼女の後継者を僭称し、高い地位に登り詰めて私腹を肥やしている。

更に、騎士が持ち帰った治癒の術と品も自分たちの成果として公表し、用済みとなった彼からは称号を剥奪して神殿から追いやった。


 騎士の手元には武具だけが残った。

神殿特有の煌びやかな装飾は、誇りから裏切られた証に転落し、余計に淋しく見える。

彼は復讐も、慟哭もしなかった。

ただ亡き主の墓前で項垂うなだれていた。

魔女は何日もそれを見守っていたが、例え大雨が訪れても騎士の様子は変わらなかった。


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