第4話
魔女はなぜだか騎士が嫌いだった。
けれど、今になって彼女は分かった。どこまでも一途で、真面目で、誇り高い騎士が妬ましかったのだと。
魔女はこれまで、誰かの為に善意を働かせた事が無かった。全て気分任せに動き、適当に生きて来た。
「自分は異端の魔女だし」という理由を付けて好き勝手していた。
だから、自分に無いものを持っている騎士が妬ましくて、自分と同じところに引き込んでやりたかった。
でも、今は違う。
諦めに浸る騎士を見ていると、腹が立ったのだ。
魔女は騎士のもとへ歩み寄った。
「いつまでそうしてるつもり?」
「さぁな」
「……」
魔女は鎧を着たままの騎士を抱き締めた。
いつもの騎士なら「くっつくな、鬱陶しい」と振り払うが、今はその気力もない――と言うよりも、そのまま弱音を吐き散らしたくなってしまったのだろう。
「全部、無駄だった。遅過ぎた。私が、弱いばかりに……」
いつになく弱弱しい声だった。
が、魔女はそれを慰めようとはせず、華奢な手を使って騎士を殴りつけた。
兜のお陰で痛くはなかったものの、騎士はそのまま力無く地面に倒れる。仰向けのまま起き上がろうとしない彼に馬乗りになり、魔女は狂ったように殴り続けた。
両拳からはダラダラと血が。
魔女が痛みに悶え始めた辺りで、騎士はその腕を掴んで止めさせた。
「ふざけんな! あんたの献身は……強さは……優しさは、本物だった! 私はそれを見てた! その時間をもう一回『無駄だった』とか言ったら殺すから!」
「……」
魔女は落したとんがり帽子を拾って頭に乗せると、雨を浴びる騎士を置いてその場を去った。
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