第2話

東に僧侶が居ると知ればすぐに訪ね、西に呪術師が来たと聞けば駆け付け……それらしい者には片っ端から話を聞き、解呪の術を探す騎士が居るらしい。

誰からどれだけ首を横に振られても限界まで食い下がらず、そんな事を毎日毎日飽き足らずやっているとのこと。


そんな噂を耳にしたとある魔女は、興味本位でその騎士に目を付けた。



魔女は夕刻の闇に紛れて、早速騎士の前に現れた。


「解呪の術を探しているそうね。手伝ってあげようか?」


騎士は食い気味に問う。


「当てでもあるのか?」

「別に。でも、魔法やまじない、薬に占い……そこら辺はあんたより詳しいと思うけど」

「何が目的だ?」

「面白そうだと思っただけ」

「そうか。冷やかしであれば結構だ」


魔女は驚いた。自分が男に拒絶されたのは初めてだったのだ。

美貌には自信があり、妖艶な衣装も相まって、これまで声を掛けた男は残らず落として来た。

にも拘らず、騎士はあっさりと誘いを断って、既に背中を向けて立ち去ろうとしている――魔女はそれが許せなくて、自分を認めさせようと躍起になり始めた。

手始めに、


「ちょっと待ちなさい。この後すぐ大雨が降るわ」


と告げて、自分の有能さを示そうとした。


「だったら何だ」

「何よ、その態度! こっちは親切で教えてあげたのに」

「恩着せがましい女だ」

「そっちこそ、強情な男ね!」


などと口論をしている間に、二人揃って土砂降りの雨に打たれた。




結局、二人は宿を共にすることに。


「おやじ、二人部屋を一晩貸してくれ」

「承知致しました。あ、カップルのお客様には割引しておきますね」

「要らん」「要らないわよ⁉」

「も、申し訳ございません!……料金は確かに頂きました」


部屋に入ってから、騎士は壁を向いて黙々と自分の髪や体、鎧を拭いていた。

一方魔女は、水気を吸ったローブや帽子を暖炉の前に干し、そのままベッドに入った……遠回しな「今は服を着てませんよ」アピールである。


(夜の男なんてただのケダモノよ。さっさと本性を現しなさい!)


魔女は悪知恵を働かせて狸寝入りをしていた。

程無くして、騎士が磨き終わった鎧をゴトリと床に置いた。


「まだ起きているのか?」

「…………」


騎士の問い掛けに対し、魔女は答えない。


(さぁ、来なさい。騎士様様の鍍金が剥がれるところを私に見せるのよ!)


床がきしんだ……騎士が魔女のベッドへ近づいて来たのだ。

魔女は自分の期待通りの足音が聞こえて来て、しめしめと思う。

しかし、魔女が次の瞬間に味わった感触は毛布そのものだった。


(⁉ ……⁉⁉ ……⁉⁉⁉)


困惑する魔女のもとに、遠ざかる騎士の独り言が。


「薄いシーツ一枚に裸など、風邪を引くだろうに……」

(この鈍感野郎!! いや、クソ真面目なのか⁉)


魔女は人知れず、一晩中頬を赤らめていた。




これをじれったく思った魔女は、騎士をしつこく付け回すようになった。


構って欲しい魔女と、時々手を貸してもらう騎士。

二人の間にはいつしか奇妙な協力関係が生まれた。

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