聖騎士である私に、変な魔女が纏わり付いて来る

幸/ゆきさん

第1話


ある所に騎士が居た。

かつて身寄りのない少年だった彼は神殿にて心身を鍛え、ある年齢としを境にパートナーを得た。

「パートナー」と言っても、恋人や伴侶ではない。

共に使命を為す聖女である。

生涯を捧げるたった一人の主にして、守り抜くと誓いを立てる相手である。


騎士が仕えた聖女も、簡単にその称号を手にした訳ではない。祈祷師の中でも選りすぐりの能力と精神力が認められて今があるのだ。

また、彼女は自身が信仰する女神そのもののように心優しかった。各地の教会へ頻繁に赴き、民の声に耳を傾け、傷や病や呪いを癒す……素晴らしい奇跡の使い手だった。

騎士は自分よりも若いのにそれだけ立派な主を誇りに思っていた。


ただし、聖女の奇跡は不完全だった。

本当は、彼女は誰の傷も治す事ができない。自身が一度身代わりとなって傷を引き受け、それを治すだけなのだ。

普段聖女の下に舞い込んで来る傷の類は軽微なものであり、多少重いものであっても、彼女は苦しみをおくびにも出さなかった。




騎士と聖女は魔物の多い地域を渡らなければならないときがあった。

その日は特に難が多く、幾ら腕の立つ騎士でも瀕死に追い込まれた。

主に降りかかる火の粉を払う剣にして、何人たりとも通さぬ盾である任を忘れぬ彼だからこそ、捨て身の覚悟で戦ったのだ。

聖女は当然、命懸けでこれを癒す。

しかし、傷と呪いの重さは度を越しており、終には彼女が倒れてしまった。


その後目を覚ました騎士は目を疑った。

自分の右腕にあった裂傷は消え、それによく似たものが主の右腕にある事を。

自分の腹に植え付けられた呪いが、主の身体に渦巻いている事を。


彼は、自分が確かに主を無傷で護衛した筈だと己に確かめる。

そして事態に理解が行った瞬間、酷く悔いた。拳を握り締めるあまり手甲が歪んでしまう程に。

彼は、聖女の一番近くに

      一番長く居たにも拘らず彼女の障害に気付かなかった己を責めた。

できる事ならそんな度し難い奴の体を剣でズタズタにして罰してやりたかった。

しかし、それは聖女が癒してくれた体であり、無駄にする事はできない。

騎士は目を覚まさない主を背負って歩く中、ただ己の無力を恥じるのだった。




無力なのは騎士だけではなかった。

神殿に連れて帰られた聖女は、名のある祈祷師や医者から何度も治療を受けたが、根本的な解決には至らず。

外傷は消えても彼女の目蓋を固く閉ざす呪いはどうにもならず、聖女はみるみるうちに衰弱して行った。


決意をした騎士は、主を神官たちに託した。そして、意識の戻らないままの彼女に


「一時、お傍を離れます」


と断って旅に出た。


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