【手紙#3】

 響児へ


 まずは「おめでとう!」と声を大にして言いたい。ついにおまえは解放された。

 こんな、病んでて、おまえに迷惑をばかりの俺から、おまえは解放されて、自由になったんだ。独立記念日だよ。この手紙がおまえの手に届くのが何年の何日かは知らねーけど。


 よくよく考えれば、俺ら結構付き合い長いよな。

 俺らは中高一貫校で、俺が中三、おまえが中一の時に出会った。俺らは揃って身体が弱くて、保健室の常連。保健室の教師の配慮もあってか、俺とおまえは徐々に打ち解けていったよな。

 おまえは読書が好きだった。とても中学一年生が愛読するようには思えない難解でよく分からない鈍器みたいなのばっか読んでた。俺は、日本の現代文学をたまーに読む程度だったけど、おまえに汚染されてガイブンも結構読むようになった。

 逆に、おまえは音楽、ことロックやパンクのことを何も知らなかった。TVでなってる曲が全てと思ってしまう可哀想な病気の一例だった。だから、俺がロックの英才教育をしてやった。おまえは本は何でも読んだけど、音楽の好き嫌いが激しくて、でもだからこそ、俺は保健室に行く時に持って行く音源のチョイスに良い意味で燃えてたんだ。

 俺は生まれつき、自律神経がおかしい。

 おまえは、酷い喘息持ちだった。

 それでも、いつか一緒にライブに行ってみたいなんて言い合ってて。

 結局その夢が叶ったのは、時折保健室登校になったりしつつも俺が卒業して通信大学に入り、おまえがギターの専門学校に進学した後だった。

 洋楽バンドよりも邦楽のアーティストのバンドの方がチケット代が安いってことで、俺とおまえは下北とか渋谷のライブハウスに行ってたなぁ。今でも後悔してることがある。おまえが急遽ダチのバンドのギターで参加することになったライブを、俺が体調不良で見に行けなかったことだ。あの時ほど自分の身体の脆弱さを呪ったことはない。

 渋谷のクアトロとか、下北のシェルターとか、ZEPPとか、おまえとは色んなハコに行ったけど、俺がライブパフォーマンス抜きで一番好きで、一番印象に残ってるのは恵比寿リキッドルームだ。

 Syrup16gのライブで、確か2DAYSの二日目しかチケットが取れなかったんだよなぁ。しかも最初の二曲しか既存曲をやらず、そこから怒濤の新曲12曲で本篇終了。アンコールでやっと、少しだけ知ってる曲をやってくれたライブだったけど、おまえは初めて聞く曲でもすっげぇ集中して聞いて、知ってる曲は飛び跳ねまくって、まあ俺も似たようなもんだったけど、あれも良い想い出だ。

 疎遠になってかなり経つのに、まして俺が切られた側なのに、こんな手紙を送り付けて本当に申し訳ない。

 でも俺は、どこに行ってもおまえの親友でありたかったよ。

 ありがとう。

 そして、おめでとう。

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