【手紙#2】

 響児へ


 まずは「おめでとう!」と声を大にして言いたい。ついにおまえは解放された。

 こんな、病んでて、おまえに迷惑をばかりの俺から、おまえは解放されて、自由になったんだ。独立記念日だよ。この手紙がおまえの手に届くのが何年の何日かは知らねーけど。


 よくよく考えれば、俺ら結構付き合い長いよな。

 俺らは中高一貫校で、俺が中三、おまえが中一の時に出会った。あの新学期のことは今でもよーく覚えてるよ。曰く、

『とんでもない美少年が新入生にいる』

 ってんで、一年生の他のクラス、中学の二、三年、挙げ句は同じ敷地内にある高校の諸先輩方まで見学に来てたんだからな。 

 俺は図書室でおまえを『発見』した。当時金欠だった俺は、学校の図書室でCDを借りることが多くて、おまえもそうだった。差異があるとすれば、おまえがCDラックの前に立っている間、おびただしい数の女子生徒が別の棚の裏から四方八方を囲んできゃあきゃあと小声で騒いでいることくらいだ。

 あの日もそうだった。俺の家は学校から遠い田舎町で、レンタル屋なんてない。放課後、いつもの癖で図書室に入ったら、先述した女子群が息を潜めていて、何が起こってるんだと思ったが、俺はさして気にせずCDのコーナーへ向かった。そんで、後ろの棚に向かうと、そこにおまえが立っていたんだ。

 思わず眼を見開いた。そして動けなくなった。

 おまえの美しさは、昨今軽々しく使用される『イケメン』とかいう輩とは次元が違った。儚げで、顔にはまだあどけなさが残っていたが、そのちょっと釣り上がった眼は、まるで世界を見下すようで、それでいて誰も彼をも虜にするような、真っ黒な瞳だった。

 俺は思わず視線を落とした。すると、おまえが二枚持っているCDが見えた。NIRVANAの「イン・ユーテロ」と、Radioheadの「ザ・ベンズ」ってオイ、十二歳のチョイスじゃねえだろ、イマドキ。なんて俺が考えていたら、おまえは勘違いして声を掛けてきた。

「あ、どっちか借りるんですか?」

「いや、趣味いいな、と思って」

「え」

 今度はおまえが硬直した。俺に失言があったかと一瞬考えたが、そうでもなさそうだ。

——と思ったら。

「あ、あの三年の先輩ですよね?! 両方ご存知なんですか?!」

 胸ぐらを捕まえんばかりの勢いで、それでも小声で、おまえは食いつくように言った。

「いや、洋楽ロック好きなら普通っていうかメジャーすぎるだろ」

「え! 先輩も洋楽聞かれるんですか?」

「まあ、若干UK寄りだけど、アメリカのロックとかパンク系も大体おさえてるよ。邦楽も多少は」

「え、マジすか! 一番好きなバンドとか聞いていいスか?」

「いきなり難しいなぁ。でもイギリスならMUSE、アメリカなら……マイナーだけど、Bright Eyesっていう——」

「先輩神か!!」

 ついにおまえは図書室で絶叫した。図書委員が注意に来るかと思ったが、どうやらおまえ目当てでぎゅうぎゅう詰めの女子らへの対応の方が大変らしかった。

「あ、あの、俺も両方大好きで、あの、良かったら連絡先とか伺ってもいいですか……?」

「お、いいよいいよ。洋楽ロックオタクは少ないからね、最近」

 それから俺とおまえは、CDの貸し借りや、歌詞の解釈、おまえが高校に上がってようやく親の許可が出て一緒にライブにも行けるようになった。

 最後におまえと行ったライブ、俺は今でもはっきり覚えてるよ。

 邦楽の、Syrup16gっていう、売れてはいないけど熱心なファンが多いバンドで、ハコは恵比寿リキッドルーム、2DAYS。おまえマジで泣きまくってて——

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