第3話 ヒロトの部屋で

 このままではマズい。オレは焦り始めていた。原因は、オレの持ち主、ヒロトがスマホで話している内容だった。


「でさあ、今日で文具一式揃えられちゃったよ……受験勉強?やらないよそんなの」


 エンマ大王は言っていた。使い切られない限り成仏することはない。もし捨てられて、エンピツが折れたら、オレはそのまま地獄で火の玉になるらしい。このままではいけないぞ。エンマが最後にボソッと呟いた、


「意味のある会話なら持ち主としても良い」


を、良いように解釈したオレは、他の部屋に聞こえない程度の声で呼びかけた。


「おい、エンピツを使え」


 ヒロトはビクッと体を震わせ部屋を見渡す。


「え、やっぱり?男の声した?でも親父はまだ仕事のはずだし、あいつな訳がないし……」


「いいからエンピツだけでも使え!」


 しびれを切らせて怒鳴ると、ヒロトは真っ青になって、電話を切った。良い気味だ。ヒロトが部屋をキョロキョロしだしたので、今度はまた落ち着いた声で話しかけた。


「オレだよ、ペン立てに突っ込まれたエンピツだ、エンピツ。前世でギンコーゴートーしたエンピツが喋ってんだよ」


 何処から声がするかは理解したようで、ヒロトは恐る恐るオレをつまんだ。


「あんたが喋ってるの?」


「おう」


「僕、疲れておかしくなったのかな」


「一昨日から見てるが、良い身分の坊主だぜ」


 すると、突然ドアがノックされ開けられた。


「ヒロちゃん、電話は使いすぎないでよ……電話はしてないのね」


「う、うん。暗記問題を口に出してた」


 動揺を隠せない中、超ファインプレーで母親をごまかしたヒロトに初めて感謝する。


「そう、無理しないでね」


「隣の部屋の引きこもりみたいにならないようにね」


「やめなさい!」


 母親は勢いよくドアを閉めてしまった。そういえば食器の乗ったお盆を持っていた。その引きこもりの部屋に置くのかもしれない。まあ、そんなことはどうでもいい。オレは、オレを恐る恐るつまんでいるヒロトに、もう一度話しかけた。


「どうだ、状況は掴めたか?」


 ヒロトはため息をついてこう言った。


「もし、掴めたら、僕はまともじゃないと思うよ」


「そうかもな」


 オレは素直に認めた。

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