第2話 前科持ちの俺(エンピツ)、お買い上げされる

 気がつくとオレは、ペン立てのような棚に他のエンピツと立てかけられていた。他のエンピツどもがペラペラ喋っている。


向かい側の棚には、ノートや原稿用紙の置かれた棚が見える。


今まで半信半疑だったが、本当にエンマの言う通りなったようだ。ガヤガヤとしたその箱舟で、オレたちは情報交換した。


「おたくは、何で?」


「私、恥ずかしながら横領でして」


「それはそれは。そちらのお若い声の方は?」


「自分、スピード違反で運転してたらそのままガードレールに突っ込んじゃいました」


「大変でしたなぁ」


「いえ、一瞬のことだったんで」


 ロクでもない奴らばかりだ、と思っていたがオレもその一人なんだよな。


「あんたは、何したんですか?」


 ピンクの色鉛筆に聞かれたので、銀行強盗、と言いかけると伸びてきた手がオレを掴んだ。


「ヒロちゃん、これなんかどう?使いやすそうよ」


「ぐえっ」


 中年の女の声とともにいきなり鷲掴みにされたオレは、思わず声を上げてしまった。他のエンピツどもは急に無言になった。皆、来世のために掟には忠実なようだ。


 中年の女は怪訝そうな顔でオレを見たが、その後気に留める様子もなく、遠くにいる誰かを呼び寄せている。


 すると、小学五、六年生くらいのガキが近づいてくるのが見えた。ガキのいた場所には、うんざりする量の本が収まっていた。どうやらこいつが「ヒロちゃん」らしい。


「ちゃんと外ではヒロトって呼んでって言ったじゃん」


「ごめんごめん、次から気をつけるから」


 母親であろうこのおばさんは、気をつける決意の全く感じられない口調で呟いた後、オレをガキに見せつけた。


「どう?」


「何でもいいよ」


 何だと、このクソガキ、オレを誰だと思ってるんだ、なめんなよ、と声に出さずにギャアギャアわめいていると、ヒロトの母ちゃんはオレをカゴに入れ、帰ろうか、と言った。


「タクミも待ってるし、ね」


「どうせ、引きこもったまんまだよ」


 ヒロトが呟くと、母親の寂しそうな目がカゴの上から見えた。


「そんなこと言わないで、帰ろう」


 どうやらオレの今生で関わる連中はずいぶんワケありのようだ。


 体に刻まれたバーコードをリーダーでかざされてお買い上げされたオレは、ヒロトのペン立てに突っ込まれた。

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