クローン兵『ジルク』の受難
魔法科学。
それが現実可能な技術となったのは、異世界から来訪した者たちの登場によって、大気中に含まれる魔素をエネルギー源に誰でも魔法が扱える魔導具があふれかえった頃だった。
当時、無限のエネルギーとされる――ナノマギアの発見により、人類の魔法体系は新たな変革の時を迎えることとなった。
血統による才能を必要とせず。
熟練者に近い魔法を扱うことのできる魔導具の発明は画期的だった。
現に人類がこうして地上から宇宙に拠点を変え、宇宙船――方舟で幾多の星々に飛び立てるようになったのも、この魔法科学のおかげだろう。
まさに奇跡の技術革新の連続。
一説では異世界人の来訪は世界を創造せし『女神様』が繁栄するにふさわしい種族と認めた証だとされ、当時の魔法科学技術で作られた遺物は数多の惑星が滅んだ今でも、高値で売り買いされているほどだった。
そして、そうした遺物が高値で取引されているとなれば当然、『遺物』を回収し、生計を立てたり、あるいは一旗揚げようと野心を燃やす者も現れるわけで――
「くっそ、アイツ等。俺がクローンだからってバカにしやがって! なんで組織のコスト運用に必須だからってクローンばっかり派遣してくれねぇんだよ!」
そういって真っ赤なパンツを握りしめ廃墟を爆走するヘンタイ野郎ことジルクも希少な遺物を手に入れ、成り上がろうとする者の一人だった。
旧式魔導銃を片手に、自分と同じ顔をしたクローン兵に指示を飛ばせば、スラム街から外れた荒野で、四足歩行で追ってくるモンスターの群れが追いかけてきた。
壊れた旧世界の電子音が不気味に鳴り響く、瓦礫と汚染されたナノマギアに包まれた廃棄都市――アバドン。
とある惑星の爆発により、原住民に見捨てられなければいまも輝かしい文明を築いていただろう都市は、見るも無残な廃墟と化し、強力な≪機械生命体≫――リゴストがうろつく危険な場所となっていた。
それでも十分な装備を持つ≪漂流者≫であれば、こんな自律兵器が公然と野に放たれようとどうということもないだろう。
だが、所詮ジルクたちは、遺伝子を複製された劣化品に過ぎず。≪血統スキル≫もなければ、一体5000ディーナで作られた粗悪な強化複製体でしかなく――
「だあああああ、なにがクローンでも攻略できる遺跡だよ! 浅いエリアだと思って探索してみれば、普通に≪リゴスト≫と遭遇するじゃねぇか!」
「司令官。右からリゴストの群れが接近中です」
「急いで防衛陣形を組ませろ。弾薬は気にしないでいい! ありったけの魔弾で遺跡から回収した遺物だけは絶対に死守しろ!」
自分と同じ顔に、叫ぶように指揮を飛ばせば、クローン兵たちが一糸乱れぬ動きで迎撃態勢をとる。
絶え間なく襲い来るモンスターの群れを前に、次々と血しぶきを上げ、生きた肉盾となり犠牲となっていくクローン兵たち。
そして防衛体制を突破し、猛然とジルクめがけて襲い掛かってくる大型犬の形をした機械仕掛けの化け物――≪リゴスト≫に、ジルクは魔導銃を突きつけ、発砲していた。
(くそ、一発5000ディーナするとっておきだってのに、こんなところで消費すんのかよ!)
絶え間なく銃口から放たれる使い捨ての魔弾が質量を伴った弾幕となって、機械仕掛けの身体を数秒も立たずに原形の留めないガラクタに変えていった。
衝撃で尻もちをつき、不格好な形であたりを見渡すも、動く影は見当たらない。
「戦闘終了を確認しました。いかがなされますか司令官」
「遺物の装備の回収を急ぎつつ次のポイントに移動するぞ」
「同胞の死体の方はいかがなされますか」
「……この場に置いていけ」
無感情に指示を待つクローンに命令を飛ばせば、死んでいった同胞から装備をはぎ取り、回収していくクローンたち。
生まれてまだ数時間とはいえ、自分と同じ姿の死体が処理されていく風景はいつ見ても気分が悪い。
「生き残ったのは10『体』か。随分死んだな」
そしてジルクも地面に散らばった残骸の中から、比較的無事なこぶし程の光る魔石を拾い上げれば、その価値の低さに無意識に顔をしかめていた。
「――はぁ、大量の魔弾を消費した割には成果がたったこれっぽっちか。わざわざ遠くの遺跡に遠征に来たってのに弾代だけで大赤字だなこれ」
『ですから単独での探索はこれ以上、割に合わないと忠告したのですマスター』
「わーってるよAIRI。それでもボスの命令なんだからしょうがねぇだろが」
そうして耳元で聞こえてくる女の声に、乱暴に返事を返し、ジルクは人のいないはずの廃墟都市にしては、やけに整備された遺跡を振り返る。
ジルクもここが自分を殺すに足る非常に危険な場所だと理解している。
わざわざ危険な遺跡にクローン兵たちしか連れず、しかも魔導銃一丁で挑もうとする自分の方が間違っているのだろう。
それでも多くの漂流者が夢を見て、荒野の一部となるのは、その危険に見合う『価値』がこの奥の遺跡に眠っているからに他ならない。
現にここまで大量の遺物を手に入れることはできた。
だが――
「だからって、なんでこの惑星一番のお宝が女物のパンツなんてことになるんだよ」
そうして依然と、自分と重なるようにお宝の魔力反応を示しつづける携帯端末を叩くと、ジルクは女物のパンツを睨みつけ、数日前の『全面抗争』を思い出していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます