ジェネティック・クローンユニバディ,s ~劣等生なクローン兵、パンティーを拾う。なぜか最強のチート能力を手に入れる~
川乃こはく@【新ジャンル】開拓者
プロローグ ――破天荒な旅立ち
≪システムオールグリーン。ようこそアンノウン≫
≪魔導宇宙遡航術式――方舟ArK、起動します≫
広大な宇宙に倫理なんて存在しない。
ルール、秩序とはすなわち、生命の営みの上で存在するのだ。
だからこの広大な宇宙の中で『二人』の営みを否定できる者は誰いない。
「ああ、らめぇ、もう今度こそ死んでしまうぅぅううう!!」
やけに幼い舌足らずな少女の声が船内に響き渡った。
「いいか。レミリア、覚悟を決めろよ」
「いや、そんな、駄目じゃジルク。そんなしゅごいの使ったら妾のが壊れてしまうぅ」
少年がせわしく指を動かせば、ガタガタとあえぐ少女の悲鳴が鼓膜を震わせる。
それは少年が激しく上下左右に動かすたびに、少年の理性を削ぐように高まっていき――、
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ー、駄目じゃ駄目じゃ。今度こそ撃墜されりゅううう!」
「だああー、うるせぇ黙ってろレミリア! 集中できないだろうが!」
ノイズ交じりの暴言とエネルギー弾が飛びかう宇宙のなか、操縦桿を握った黒髪の少年が玉の汗を浮かべ、唇を噛んでいた。
かれこれ一時間は続く、広大で無限な敷地を使った鬼ごっこ。
無数のエネルギー弾が飛び交い、後方から迫る艦隊の追撃は誰がどう見ても戦力過剰と言わざるおえないが、
『ジぃぃぃルぅぅぅクぅぅぅ! いい加減諦めて投降しろぉ! テメェ、能無しのクローンの分際で俺たちから逃げられるとでも思ってんのか!』
「うるせぇ、投降しろつったってすでに生かす気ねぇだろうが!」
そんな度重なる降伏勧告を無視し、棺のような小型船で縦横無尽に宇宙を駆け抜けば、少年は奇跡的な挙動で、艦隊の群れから逃げきっていた。
予定航路から大きく逸れた逃亡劇。
船内のエネルギーもそろそろ怪しくなってきた頃だ。
いい加減諦めてもらいたいところだが、
「くっそ、たかだか遺物一つを盗んだ程度でどこまで追いかけてくんだよアイツ等! 絶対コストに見合わないだろうが!」
なにせ方舟一つ落とすには過剰な弾幕の嵐。
奪い奪われが日常なこの宇宙であっても、高々『盗っ人』と一人にここまで戦力を投入してくるのは予想外だった。
(くそ、一発まともに被弾しただけでも宇宙の藻屑だってのに。それを千発とかどういう神経視点だアイツ等!)
現にエネルギーを纏った弾幕をギリギリ掠めるようにして凌げば、鳴り響くアラートが方舟の魔力装甲の残量を知らせてくる。
だがこちらにも死ねない理由があり――
「AIRI! 現在の方舟の状況を報告しろ!」
『魔力装甲損耗率80%及び方舟残存エネルギー30%ですマスター』
やけくそ気味に叫べば、コックピットの中から平坦な女性の電子音が聞こえてくる。
「くっそ、このまま逃げても埒が明かねぇ! レミリア腹くくれ! こっからはこっちも攻勢にでるぞ!」
「ちょちょちょちょ、おぬし! そんなことして本当に大丈夫なんじゃろうな⁉ このままじゃマジで宇宙の藻屑じゃぞ!」
「ああ、だからそうなる前に何とかしてるとこなんだよ! つか、叫ぶ暇があるのなら魔石を魔力炉に突っ込み続けろ! 何ならこのままお前を船外に放り出したっていいんだぞ!」
「なんですとー⁉ これ
耳元で叫ばれる幼い抗議を、操縦桿を斜めに切って黙らせる。
そして無茶な挙動で船体を急旋回させたのち、ブレーキを踏み、急停止をかければ、目標を見失った誘導弾が通り過ぎていった。
暗闇の世界にいくつもの眩い光が灯り、ハッキングした無線越しに驚愕の声が聞こえてきた。
『なっ⁉ デトリク社製の魔導誘導弾をすべて撃ち落としただと⁉』
『旧型のArkのくせになんてスペックしてんだ』
『ええい狼狽えるな。相手は一機。俺たち≪ウロボロス≫に逆らったことを後悔させてやれ!』
だが、向こうがこちらの方舟を見失ったのは無線で把握済み。
ここが勝機と覚悟を決め、危険を承知でいち早く煙幕に紛れて艦隊の背後に回り込めば、
「4年間、お世話になりましたッッ!」
「なああああああ、妾のとっときの波動砲がぁあああああああ⁉」
舌足らずな幼い叫びの後に、ガシャガシャと形を変えた船首の砲塔が、真空と放射能の存在する冷酷な暗がりの世界に、いくつもの七色の花を咲かせる。
遅れてやってきた衝撃に視界が白く焼け、船体が大きく揺れる。
周囲を警戒するも、先ほどまでしつこく攻撃してきた艦隊の姿が見られない。
「はぁ、どうやら倒せたみたいだな」
「ふ、ふきゅう」
ドッと吹き出す汗をぬぐい、大きな溜息がこぼれる。
以前高鳴る心臓の音は、念願の自由を得た興奮か、それとも生きていることへの安堵か。
とにかく生きていることには変わりない。
「たかだか単価5万ディーナで作られた身としてはよくやった方だな」
自嘲気味呟き、少年は己の力不足を痛感する。
自分の価値を取り戻すにはまだまだ力不足。
それでも最初の一歩くらいは踏み出せたに違いない。
だが少年に芽生えた人間らしい情緒は長くは続かず、索敵レーダーに映るいくつもの魔力炉の反応に再び顔をしかめると、
「はぁ、ほんと厄介な依頼に巻き込んでくれたもんだよ、お前」
そうして艦隊一つを小型宇宙船で壊滅させたクローン兵――ジルクは、先ほどの衝撃で目を回す夕焼けの髪をした幼女に視線をやると。
ジルクの運命を大きく変えた出会いに思いを馳せ、二人は再び行く当てもない暗がりの世界に身を投じるのであった。
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