二輪目{弐}

 シグマは、困惑していた。

 確かに、自分は暗闇を彷徨っていた筈である。

 だが、今はどうだ。先程まで、。ただ、全ての光を吸収するほどの黒さを持った闇は、自分が如何いう状態にあるのか認知させてはくれなかった。


 暫く経つと、急に視界が開け、シグマは尻餅を衝く。どうやら下に落ちていっていたようだ。周りには誰もいないらしく、殆ど音は聞こえなかった。

 シグマは、ようやく目が白さに慣れたところで、周りをゆっくり確認する。先程暗闇だったのに対して、今度はただただ広い白闇だった。窓も何も無く、それどころか、部屋には隙間が無かった。ありの一匹も通れないだろう。

 「げほっ」

 ...寒い。可笑しいな、とシグマは首を傾げる。この部屋には空調の一切は置いていないし、ご丁寧に取り付けられた温度と湿度、其れとシグマには理解できない謎の数字が書かれた温湿度計には、部屋の温度は20℃を指している。それほど寒くないのに。なんでこんなに寒いんだ...?

 その時、「お早う御座います、」と、何処からか声が聞こえてきた。

 「もうすぐニコライさんが来るので、大丈夫ですよ、安心してくださいね♪」

 なんか、さいごのほうめっちゃじょうきげんだな。

 其処にきてシグマは、自分が仰向けになっていることに気づく。直ぐに起き上がろうとするが、上手く体が動かない。其れに、先刻よりも、寒さが増している。目が霞んで、何も視えない。シグマは、意識が無くなる寸前、自分が落ちて行く感覚を、再び感じた。






 「シグマ君!」

 フョードルが、資料を元に特定した監禁場所に異能空間を繫ぐと、フョードルの予想通り、シグマが落ちてきた。

 だが、シグマの体は異常なほどに熱く、息も以上に荒い。一目見れば只事ではない様子が分かるほど、シグマは異常だった。

 ニコライはシグマをおぶると、直ぐにフョードルの待つ部屋へと向かった。






 フョードルが本を読んでいると、何もなかった空間に突如ニコライが現れた。

 「...其れで?」

 フョードルは本を閉じ、ニコライに目を向け、その後、ぐったりした様子のシグマに目を向けた。

 「君の言うとおりだったさ。兎に角、シグマ君を寝かせられる処を用意してくれ」ニコライが、妙に掠れたような声で言った。


 フョードルが、シグマを寝かせる場所を準備している最中、何度か「ゲホ、」と言う声が聞こえた。ニコライのマントが、赤く汚れていた。


 寝床にシグマを寝かせると、ニコライは「はぁ...」と溜息を吐いた。

 「かなり容態が悪い。暫くは様子を視るしかないですね。」

 「...そうだね」

 話している間にも、「ゲホッ」という声が何度か聞こえてきた。フョードルは、新しいを敷布シーツを買っておいたほうが良さそうだ、と独り思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

花抓み 鼬鼠 @kurukiti

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ