第6話 精霊契約の内容

 私が泣くと思ったのに、笑っていた。それが予想外だというようなランドリックの表情など気にせず、話を続ける。


「婚約を破棄したので、慰謝料を支払ってもらいます」

「そ、そんなもの、払わんぞ!」

「ダメですよ。貴方から言い出したんですから、その責任は取らないと」


 別の女性と一緒になると言って婚約を破棄したのならば、相応の慰謝料を支払わなければいけない。それが王国のルールでしょ。まさか、知らなかったわけじゃないでしょうね。慰謝料という言葉を聞いて急に焦りだす彼。


「だ、騙したのか?」

「ですから、その内容は契約書に書いてあるので説明しようとしたのに、それを拒否したのは貴方でしょ? 私は、騙してなんていません」

「くっ……!」


 悔しそうに顔を歪めるランドリック。でも、もう遅いのよ。契約書にサインしたのだから。説明を聞かなかったのも、拒否したから。自分のせいである。


「そんなの無視すればいいのよ。むしろ、アンリエッタの醜聞を広げる良い機会よ。結婚前に婚約を破棄されて、捨てられたって。恥ずかしいのは彼女の方よ」


 横で聞いていたレイティアが再び割り込んできて、勝手な意見を言いだす。彼女は、契約など無視するべきだと主張。そうすると、大変なことになるんだけど。


 それに、なんだか話がズレている。意図的にやっているのかしら。それで有耶無耶にして、払わないつもり?


 精霊の契約を無視すると、災いが降りかかると言われている。そして、それは本当のことなのよ。


「そ、そうだな! 別に慰謝料なんて払わなくても」


 援護に気を良くしたランドリックは、彼女に乗っかる。さっきまでは狼狽えていたのに、お金を払う必要はないと強気になる。けれど、残念。


「そうはいきません」

「なぜだっ!?」

「何度も言いますが、金額もここに書いてありますから」


 私は、さっき結んだ契約書を彼の目の前に突き付ける。そこには、婚約を破棄するという内容。それによって、ランドリックが支払うべき慰謝料の額が書かれている。


「馬鹿な! 金額まで事前に計算していたなんて、あり得ない! 契約は無効だ!」

「正当な金額ですよ。契約はちゃんと成立しましたから。支払わないと、大変なことになります」

「……そ、そんな」


 法外な金額を請求して条件が釣り合わなければ、精霊の契約は認められない。契約が不成立の場合、左手首に金色の輪は現れない。


 金色の輪が出現したということは、契約が成立した証拠だった。


 私は腕に金色の輪を出現させて、ランドリックにも見えるように掲げた。これが、契約成立した証拠。同じものが、彼の腕にも。


 言い逃れることは不可能なのよ。諦めなさい。

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