第5話 友だちに対する感情 ※レイティア視点

 私には、ムカつく友人がいた。アンリエッタという、いつも澄ました顔をしている女だ。


 家同士の繋がりがあって、幼い頃から嫌々ながらに付き合わされてきた。周りの人たちは、私たちを友人だと思っているようだ。けれど私は、あの女が嫌いだった。


 向こうもきっと、私を嫌っている。そういう雰囲気があった。表向きには仲良くしているけれど、心の底ではお互いのことを見下していたのだ。


 それが、私たちの本当の関係。




 アンリエッタは、メディチ公爵家の長男と婚約しているらしい。メディチ公爵家といえば、王族の親戚筋にあたる家系。そんな家と縁続きになれるなんて羨ましい限りだが、どうも彼女の態度が気に入らない。


 婚約相手のことを自慢だとは思っていないようだ。本心を隠しているのでしょう。尻尾も見せてくれない。




 貴族令嬢としての振る舞いは完璧で、顔もそれなりに整っている。私の持っていない物を全て持っているくせに、それを鼻にかける様子もない。それがまた腹立たしいのよ。


 だから私は、彼女に嫌がらせすることにした。どうにかして、あの女の婚約相手を奪い取ろうと思ったのだ。アンリエッタが婚約相手に捨てられる瞬間の顔を見てやろうと思った。




 アンリエッタの婚約相手であるランドリックに接近するのは、とても簡単だった。彼は、自分の婚約相手との相性が悪かった。どうにかして、婚約を解消したいと考えていた。都合がよかった。それなら私が協力してあげますよと言ったら、簡単に話に乗ってきた。


 共通の敵を作り、仲を深めた。男のプライドをくすぐり、褒め称えた。それだけで、彼は私を愛してくれるようになった。


 ついでに、メディチ公爵家の次期当主であるランドリックの新しい婚約相手になるチャンスも手に入った。本当に幸運なこと。今なら、なんでも上手くいきそうな気がする。この調子で、あの女を不幸にしてやるのよ。


 仕上げは、結婚発表のパーティーで婚約破棄を宣言すること。そこでランドリックにアンリエッタを捨てさせる。そうすれば、あの女はどんな顔をするのでしょう? 想像しただけでワクワクした。


「ねえ、ランドリック様」


 私はベッドの上で、彼に身を寄せた。そして、甘い声で囁きかける。


「明日はちゃんと、婚約相手を捨ててくださいね」

「もちろん。君と俺の望み通り、あの女を捨てるさ」


 ランドリックはニヤリとした笑みを浮かべると、私の身体を押し倒した。そのまま唇を重ねてくる。私は抵抗することなく受け入れた。

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