第7話 契約の対価

「だとしても! 婚約を破棄しただけなのに、これだけの慰謝料を支払えだなんて。こんな一方的な契約など認められるはずが……」

「そうよ! こんな金額、オカシイじゃない! 慰謝料でこんなに金を支払えって、高すぎるじゃない。馬鹿じゃないの!?」


 契約を成立させた後に、ようやく契約書の内容を確認した2人。そして、慰謝料の金額が高すぎると騒ぎ出す。残念ながら、もう遅い。


 精霊の契約書は、片方に有利すぎる内容の契約は不成立になる。


 それから、契約の内容に不満がある場合も不成立となる。内容に納得してサインをした場合だけ、契約が成立する。無理やり契約を結ばせることはできない。


「ですから、先に契約書の内容を確認すべきだったでしょう?」

「ぐっ……」

「く、くぅ!」


 2人は悔しそうな表情を浮かべて、私のことを睨みつける。まあ、今さらそんな顔をしても意味はないけどね。


「もう遅いけれど、契約の内容を確認しておきなさい」


 彼らに、もう一度しっかり内容を確認しろと成立済みの契約書を差し出す。そこに全部書いてあるんだから。


 再び、ひったくるようにして契約書を手元に引き戻すと、今度はしっかり目を通していく。


「くっ! だから、なんて書いてあるんだ。口で教えてくれたらすぐに分かるのに。わざわざ、こんなものを読ませやがって」


 ブツブツ文句を言いながら、ようやく内容を確認し始めるランドリック。さっきは説明の必要はないと拒否したくせに、今度は教えろと要求してくる。本当に自分勝手な男ね。


 文句を言う前に、さっさと確認すればいいのに。そもそも、内容も理解しないまま契約するなんて愚かすぎる行為。もっと慎重になるべきなのよ。色々と言いたいことはあるけれど、黙っておく。いちいち指摘していたら、話が進みませんから。


「な!? お前、これは……」

「ねぇ、なんて書いてあったのよ?」


 絶句するランドリック。そんな彼の腕に抱き着き、契約の内容を聞き出そうとするレイティア。そんな2人に、私は告げる。


「契約書に書いてある通り、婚約を破棄された私はバロウクリフ家から除籍。貴族の身分を放棄して、一般庶民になると書かれていますよね?」


 私が口にした内容を改めて聞いた2人は、愕然とした表情を浮かべていた。


 彼に慰謝料を要求した私も、それなりの覚悟をしていた。


 貴族の娘として生まれ育ってきた私が、平民になることを受け入れるのだ。相当な対価になるだろう。そのおかげで、実は慰謝料の額も相当高額になっていた。

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