第12話氷結候

敬一が戦いのスタートラインに立った頃もう一つの物語幻想も動いていた、【氷結候】と呼ばれる吸血鬼ヴァンパイアの少女の話である、彼女の物語幻想が彼の戦争現実に関わるのはもう少し先の話である

現実世界リアルにギア達が攻め込むのを尻目に彼女は自身が漂流したこの世界で今は留まりたいと思っていた

(帰る手段が見つかっているならまだこっちに留まっても良いよね?)

そんな事を考えながら南にあるクルジオン連合王国の町に向かっていたところ遠くから僅かに喧騒の音が響いて来た、何事かと思い不可視化の魔法[インビジブル]を使用して近づくとそこではいくさをしているようだった

ギアからはこの世界において自分達漂流者プレイヤー現地人この世界の者よりも高い能力を保有していると聞いてはいるもののやはり元々一般人に過ぎない彼女はこの状況で飛び出す勇気はなかった

今までがそうでも自分が絶対そうだとはわからないからである、しかしどこかで必ず自分を試さなければいけない時は来る

「今がその時とは言わないけど、やっぱり試すなら早いほうが良いよね」

今まで自分は色んな事を先送りにして来た自覚がある、だからこそと勇気を出して不可視化魔法インビジブルを解除して戦場に踊り出た

(この世界では古い魔法が階悌が高くて強いと言っていたけど私の知識の階悌にそんなルールはない、なら試してみるだけ)

「まずは手始めに、吹雪魔法ブリザード

初手に自分の得意な魔法の中で八階悌中級の魔法を放つ、例えダメージがなくとも吹雪魔法ブリザードには凍結の副次効果があるので相手が動けない内に逃げる事も出来る、そう思っての攻撃だったが・・・

「思っていた以上に効果的ね」

目に見える効果範囲内の存在は一瞬の内に凍りつきその生命活動を停止させていた

「八階悌は有効、なら他の魔法は?」

次に放ったのはもっと階悌の低い四階悌の魔法である冷気魔法フリーズである、自分の強さレベル帯では滅多に使う事の無い四階悌低級の魔法である

「これも効果は抜群ね」

突然の闖入者を迎え討とうとやって来た兵士達が一瞬の内に死に絶えた

「どうやらギアの言っていた事は本当みたい」

その後も敵味方関係無く、そこで戦っていた両軍を魔法の実験台にして行く

(異世界転生ならこうでなくちゃ)

自分の力を確かめ満足する頃には、多くの兵士の凍り付いた屍が転がっていた


ここは南の軍事要塞[アルメー]北の帝国アドラーから故郷の地であるクルジオン連合王国を護る為の最前線基地でもある

「ほ、報告します、謎の吸血鬼ヴァンパイアらしき存在の襲撃を受けて部隊が壊滅しました」

息を切らして伝令が駆け込んで来る、その内容にこの要塞を預かる将兵は驚きの声を上げる

「壊滅だと、馬鹿な、あれ程の精鋭部隊が・・・」

「謎の吸血鬼ヴァンパイアだと、一体何者だ!」

「分かりません、あれ程の強力な力を扱う吸血鬼ヴァンパイアはこの辺りには領地を構えていないはずです」

「落ち着け、部隊はどのぐらいで壊滅したのだ?」

この要塞の指揮官である西の狼の異名をとるカストル将軍が質問する、歴戦の勇士である彼はこの事態でも冷静である

「それが・・・ほんの僅かな時間で、瞬く間に、戦闘していたアドラー軍と共に蹴散らされました」

「ほんの僅かでか・・・しかしアドラーの軍も攻撃を受けたならばあちら側の味方ではないと言う事か」

「使用した魔法は少なくとも第四階悌の魔法がございました」

「なんと!それは本当か?」

この世界で第四階悌の魔法は一部の天才か熟練した高位の魔法使いキャスターしか使いこなせない魔法である

「凄まじい吹雪を起こす魔法を使用し自身を【氷結候】と名乗っておりました」

聞き慣れぬ名前に皆眉を潜める、この周辺に領地を持つ名うての吸血鬼ヴァンパイアは記憶しているはずだが【氷結候】なる吸血鬼ヴァンパイアには誰も聞き覚えがなかった

この日を境に【氷結候】なる吸血鬼ヴァンパイアの勇名は各国に轟くのであった

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