第5話諸侯乱立

フランクリン神聖王国は西側諸国の連合国家である、漂流者プレイヤーのお陰もありこの大陸の覇者となり繁栄を謳歌している人類だが未だに魔物モンスターや亜人等の脅威に人間達は曝されている

人類の護りの為に複数人の聖王が一丸となっており、そのため複数の王と国が存在するにも拘らず連合ではなく王国を名乗っている

そこはフランクリン神聖王国の首都である[ヘイムダル]において王宮の次に巨大な建物である王国貴賓館である、王族や高位の貴族が国家の行く末を決める重要会議の時にのみ使われる非常に豪華な造りの建物だ

その場所で聖王達による緊急会議が行われていた、議題は何を隠そう少し前に王国領内に現れた謎の黒い塔の事についてだ

「ついに来たか・・・800年ぶりか?」

会議の口火を切ったのは議長のフランクリン聖王である、それに続き他の聖王も口を開いた

「長らく静かだったのでそろそろではないかと覚悟してはいたが、まさか我々のすぐ近く、それもあの[暗がりの森]のすぐ向こう、あの悪魔共の巣窟のある場所とは」

[暗がりの森]とは【死霊候】と呼ばれる恐るべき吸血鬼ヴァンパイア死霊使ネクロマンサーいの拠点がある森である

「あの森は広大であり迂回するとなると大きく遠回りする必要がある」

「確かに、帝国と睨み合っている現状況ではそれは避けたい」

「しばらくは向こうの様子を見て今後の動きを決めるほうが良いでしょうな」

会議ではしばらくは下手に手を出さず様子を見るという意見で固まる

というのは現在フランクリン神聖王国はアドラー帝国と関係が上手く行っておらず一触即発の状態であり、ここで下手に動けば戦争の引き金を引きかねないからである

もう一つの理由に、西側諸国には多くの悪魔パラファラピヌ吸血鬼ヴァンパイア等がおりソレ等にも警戒を怠る分けにもいかないからである

特に西側には前大戦の跡地に住み着いた様々な人為らざる者達が跋扈ばっこしているからである

万年城[ミレニアム]に棲む架空の悪魔パラファラピヌの群れや突然現れた塔にも警戒をしなくてはいけない、その他にも灯台の吸血鬼ヴァンパイアと呼ばれる滅びた港町に領地を持ち四体の強力なNPC《シモベ》を配下にもつ吸血鬼ヴァンパイアに巨大な大地の巨人を使役する魔族や多数の強力な巨像ゴーレム共を造り従える巨像作成家ゴーレムクラフターの存在等である

ソレ等がいつ暴れ出しても不思議ではないのだ、用心するに越したことはないだろう

しかし神聖王国にもかつてこの世界で人類の為に戦った人間を超越ちょうえつした存在達、すなわち漂流者プレイヤーの血を覚醒させた子孫達の存在もある、人類はかつてのように恐ろしい存在に対してまったくの無力という訳ではないのだ

それでも同じように漂流者プレイヤーの血族を持つアドラー帝国と戦争になれば神聖王国も無傷では済まない、そして西側に存在する人為らざる者達とも全面的な戦いになれば国の存亡の危機に陥る、それ故に聖王達も慎重に為らざる得ないのだ


ここは架空の悪魔パラファラピヌ達の集う万年城[ミレニアム]、その場所のリーダーギアの提案によって漂流者プレイヤー達の捜索と漂流の原理の解明のための動きが活発化していた

そんな中、万年城近くに拠点と共に漂流して来た漂流者プレイヤー【氷結候】はこの世界の事について思考を巡らせていた

まずこの世界が何なのかは今のところ不明である、自分の使う魔法はこの世界でも使える

ただし少し違いもあり、かつては階悌とは上に行くほどシンプルに強く神秘のゲージが高いという設定だったはずなのにこの世界では古さが神秘の強さ、階悌の基準になっている

(そういえば確かに設定文テキストにはそう書かれていたっけ?)

自分の知っている情報データとこの世界のルールやや齟齬そごがある

それに自分の知る限りパラファラピヌなる種族はあの世界ゲームには存在しなかった

この世界では設定文テキストが現実に影響を及ぼすということだろうか?

いくら考えても来たばかりの世界では情報が足りずわからない、自分の知る事と彼女達の知る事を話し合いながら齟齬そごを解消して行く必要がある

しかしこれはまるで異世界転移だ、まさか自分がそんなことに巻き込まれるなんて想定もしていない

転移の条件的にみんなは来ていないのだろうけどだからといって自分だけしか来ていないはずはない、何故なら転移、いや漂流の条件が世界ゲーム終焉サービス終了時に残っていたことだとしたら恐らくかなりの数の漂流者プレイヤーが居残っていた、その人達もこの世界に来ていたとしてもおかしくない

(過去にも沢山の漂流者プレイヤーが来たということだし、どうしてこんな極端に時間差があるのかは謎だけど今回も私以外がいてもおかしくないね)

時間差での漂流にも何かしらの条件があるかもしれない、しかし今考えることは一つ

(私はどうしたいのかなぁ)

ギア達は私の元居た世界に行く方法を探しているらしい、正直自分は元の世界に帰りたいとは思わない

何の思い入れもないと言えば嘘になるがそれ以上に漂流したこと世界に魅力を感じているのも確かだ

しかし悪魔達パラファラピヌが自分の元居た世界に行くのを黙っていて良いのだろうか、だが彼女ギア達に少なからず感謝やわずかばかりの友情も感じている

「私はどうしたいのかなぁ~」

その呟きは夜の闇に消えて行った

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