第22話 徳は積めているのだろうか
最近、『神様の御用人』という面白い小説を読みました。大雑把に説明すると、すっかり力の弱まってしまった神社の神様が、自分で足せなくなってしまった用事を、代わりに人間にすませて貰うっていう話です。かなり乱暴な説明ですけど。
なぜそんなに神社の神様達の力が弱まったかというと、現代人は、お願いはするけど、それっきりで感謝をないし、そもそも日常において、神様の事なんてすっかり忘れてしまっているかららしいのです。
確かに、私自身、浪人も二年目のお正月に、近所の神社にお参りに行き、いつもならお賽銭として十円を投げるところ、奮発して百円玉をなげ、この百円で、何とか何とか大学に合格させてくださいとお願いしたのに、合格した後、お礼を言いに行っていません。
それだけではありません。卒業論文を何とか通して欲しい、ちゃんと就職させてほしい、それ以外にも、幸せになりたい、健康でいたい等など、それはもう山ほどお願いしてきたのに、ちゃんとお礼を言ってないばかりか、神様のこと自体、すっかり忘れていたことに気がついたのです。
いかんで。こ~れは、マジでいかんわ。これでは、神様は弱るばかりだわ。私が神様を弱らせてるわ。
私は無神論者ですが、八百万の神様が弱っていいとは、断じて思いません。と言うわけで、急に、心の中だけでもお礼を言ったり、そこから派生して、ちょっとばかり本題からずれる気がしますが、徳を積もう、と言う意識が出てきたのです。
徳を積むということを、初めて意識したのは、以前読んだ『あなたは絶対、運が良い』という本でした。この本は、幸運を引き寄せたければ徳を積め、と、これまたいささか乱暴な要約ですが、まあ、そんなことが書いてあったのですけど、その徳を積むという部分に、えらく感銘を受けた私なのです。
実は、クリスチャンの家庭に育ったせいか、家の中で徳を積むと言う言葉は、ほとんど聞いたことがありませんでした。クリスチャンって、募金とかボランティアとかが結構身近で、母は盲人のための本の朗読のボランティアを長年しておりましたし、叔母も、年中、ボランティアで寄付された切手の整理をしておりました。教会でバサーとかもありましたしね。
でも、これらの行為に、徳を積む、という概念はなかったと思います。それ故に、耳では聞いたことがあったかもしれないけれど、ほとんど無縁だった徳を積む、という考え方が、とても新鮮で、魅力的なものに思えたのです。
そもそも、徳を積むって、さり気ない行いではないですか。自分から挨拶するとか、席を譲る、道を譲る、なるべく笑顔でいる、とか。
一時は、本当に、隙があれば徳を積んでいました。朝、夜中に旦那が飲み食いした食器がそのままになっていても、徳を積むと思えば、笑顔で片付けられたし、旦那と同時に電子レンジでお弁当を温めようとしたとき、お先にどうぞと譲れたし、大嫌いなお風呂掃除も、率先してやっていました。お風呂掃除は、続かなかったけど(今現在は、旦那がお風呂掃除をして徳を積んでいます)。
確かに、徳を積む行為って、精神衛生上よいですよね。それで何が変わるってわけでもないのに、何となく気持ちが良いですし、気分も上がる。でも、何だか続かないんだよなぁ。ていうか、わかっていても、積めないときがあるのです、私の場合。
つい最近も、電車に乗っていて、そう言うことがありました。
ある駅で電車に乗り込んできた二人の友人同士おばさんが、私を挟んで座る形になったのですが、まぁ、普通に考えて、二人は並んで座りたかったですよね。普段なら、すぐに「とうぞ」と席をチェンジする私なのですが、その時の私は本に夢中で、そういうことになっていると、気がつかなかったのです。
そこで、右隣のおばさんが、ちょっと近すぎるくらい私の方に身を乗り出して、私越しに左隣のおばさんと会話を始めたのです。私たち友達なんだから、席を替わって頂戴、と、言わんばかりに。
おばさんが、本と私の間に体を入れるように身を乗り出したので、一心不乱に本を読んでいた私も、さすがに気がついて顔を上げました。おばさんの意図はすぐに理解出来ましたが、結果、私は席を変わろうとはしませんでした。誰が譲るか。読書の邪魔をしおってからに。
後から、しまった、徳を積む絶好のチャンスを、一つ逃してしまった、と思いましたが。
徳を積んでいるとき、私はちょいちょい、携帯用卓上打算機を取り出して、徳の数を計算しているところがあります。えばったおじさんだったけど、機嫌良く道を譲ったぞ、ぱちぱち。誰も気がつかないだろうけど、こっそりお花の水を替えたぞ、ぱちぱち。晩ご飯で、餃子の最後の一個を笑顔で旦那に譲ったぞ、ぱちぱちぱち。一日の合計は、ふむふむ、これで巨大なラッキーがやってくる日も近かろう。むふふふ。
何か行動するたびに、こんなに卓上打算機を弾いていて、それは徳を積んでいることになるのでしょうか。
どうにも自信が持てません。
携帯用卓上打算機・・・たてのが幼い頃から懐に隠し持っている透明な打算機
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます