第9話 エレベーター

 有名な都市伝説に、一人でエレベーターに乗り込み、順番に特定階へエレベーターを停めると、異世界に繋がるという物がある。


「エレベーターは深夜に保守運転をするものがあると言うが、わざわざ都市伝説の動きをなぞる事もないだろうに」


 監視カメラの映像の続きには、早朝にエレベーターを利用した人が、気付かず暗闇に足を踏み出し、落下していく姿が残されていた。


「ひどいデストラップだ」


 エレベーター外の確認が出来るような窓が付いてないタイプのため、扉が開いてすぐ出ようとするだけで異世界への一歩を踏み出してしまう。

 対象は一日の最初にエレベーターを利用する一人だけで、注意深い人は自身の目的階まで降りないので、被害者数自体は少ないが、極めて悪質である事は確かなので、早急な対応が求められた。



 調査自体は簡単だ。異世界に着いたらエレベーター内の『開』ボタンを押された状態にし、釣り竿の先に有線カメラを付けた物を下ろし、モニターで確認するだけ。

 生存者が確認出来た場合は、後日ワイヤー等で引っ張り上げる事とする。


「現在15メートル、未だ何も発見できず」


 マンションが10階建てのため、下方向にマンションの約半分の高さを進んだことになるが、カメラには依然として何も映らない。

 そのままカメラを下ろし続ける。有線カメラのコードが50メートルしかなかったので、記録だけは続けたままコードを抜いて100メートルまで下ろす。

 何かに当たるような手応えもなく、釣り糸が尽きてしまったので調査を終了する。

 一階のボタンを押せば問題無くマンションの一階へと戻って来れた。



 後日、カメラ映像の検証を行っていた社員が自殺したと連絡が入った。『こんなものが存在していい訳が無い。生命が冒涜されてしまった』と叫び、パソコンごと記録メディアを破壊して、窓から身を投げたと聞いた。



 続けての調査が行われる事は無く、件のエレベーターは解体され、新しく外付けのエレベーターが設置された。

 エレベーター跡地はコンクリートで埋め立てられ、完全に封鎖されたはずだが、在るはずの無いエレベーターの扉が見えると苦情が入ったため、周辺ごと立入禁止区域になり、マンションの約六分の一がデッドスペースとなった。

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