第8話 御札の家

「お邪魔します」

「少し散らかってるから、靴のまま上がってください」


 少し、と言うには荒れ過ぎている気がする。壁には統一感が無いどころか、コピーされたものや、ボールペンで書き殴ったらしき御札が乱雑に貼られ、剥がれたものが床に落ちている。


「父は何かに怯えながらも、この家から離れようとはしませんでした」


 その父は病により病院へ運ばれ、そのまま帰ってこなかったという。

 一階をぐるりと一周したが、目に入るのは御札ばかりだ。


「ここに二階への階段が有ったんですが、ベニヤ板で閉じてますね。壊して上もお願いします」

「わかりました。後は我々にお任せください」


 今回の依頼者は清掃を第一として、霊が出たらついでに対処して欲しいとの事なので、まずは燃えるゴミの袋に御札を入れてゆく。

 神谷君が居るのもあるが、御札を剥がしていっても霊の気配は無い。


「御札無くなるだけで普通の家ですね」


 埃こそ積もっているが、御札のインパクトで荒れていると錯覚したのだろう。

 階段への道を開通させると、再び御札がお出迎えだ。


「なんだか二階は御札少ない気がしません?」

「二階を封鎖した後で一階の御札の数が増えていったのかも知れないな」


 実際には怪奇現象などは起きておらず、強迫観念により自分の居場所を狭めていくという事は良くある事らしい。

 御札を片付けてしまえば、後はカメラを設置して映像による検証だ。



「あれだけ御札が貼ってあったのに、反応無いですね」

「これは心霊案件ではなく、精神的な病だった可能性が高いな」


 音もギシギシとした音しかしないし、と話していると社員からツッコミが入った。


「誰もいないのに歩く音がするのは、立派な心霊現象ですよ」


 今までの経験から判断力が鈍っていたようだが、確かに心霊現象だ。

 その後、普通にお祓いをしてもらっただけで、足音が鳴ることは無くなった。

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