第7話 丑の刻参り

 丑の刻参りのために神社に行くのは建造物侵入罪、御神木に釘を打ち付けるのは器物損壊罪となり、警察に任せるべき問題である。

 では何故依頼になったかと言うと、丑の刻参りらしき音は聞こえるものの、痕跡が無く、監視カメラにも音しか入っていないからである。



 指向性マイクを複数使用すると、音の発生源を割り出す事が出来る。人の耳は先入観により容易に騙されてしまうため、機械で確認する事により間違いを無くせる。


「これは間違い無く丑の刻参りですね」

「方向、高さ、共に丁度の位置だな。霊の恨み言でも入っていれば、より盤石だったのだが」


 後は、社長チョイスの機材で更に調査を重ねる。


「これはモーショントラッキングカメラだ。Microsoft社のKinectが有名だが、今時はAI技術により正確かつ精密に人の動きを検出することができるようになっている」

「正確に検出するなら幽霊映らないんじゃないです?」

「駄目だったら社長に文句を言うから問題無い」



 丑三つ時、月の光が雲に隠れ、闇の中に釘を打つ音だけが響く。

 御神木にモーショントラッキングカメラを向けると、丑の刻参りらしき、腕を振り上げる動きが見えた。しかし、これだけではまだ足りない。

 もう一つの機材を向けてスイッチを入れる。すると緑色のレーザーの束が照射され、霊の姿が浮かび上がった。

 真っ白な姿に、落ち窪み闇しか見えない目。こちらを睨み付け、顎が外れるほど大きく口を開け、音もなく叫んだかと思った次の瞬間には、もうそこに霊の姿は無かった。



「人を呪わば穴二つ。丑の刻参りを見られたら、見た人を殺さなければ、呪いが自らに返ってくるという話を聞く」


 怨霊の姿が写った事で社内でも大反響だ。自分の用意した機材が役に立った社長も、踊り出しそうなほど喜んでいる。


「この緑のレーザー凄いですね。幽霊がはっきり見えるようになるなんて」

「これはD.O.T.S. プロジェクターと言って、霊を可視化する装置……という触れ込みだが、科学的根拠は全く無い」

「無いんですか?!」


 そもそも霊に科学的根拠が無いのに、機材に根拠が無いから駄目ということも無いだろう。

 今回は運が良かったし、駄目だったら他の方法を模索するだけの事。実証実験は積み重ねが大事だからな。


「いや、渡した側としてもゲームのファンアイテムが決め手になるなんて思っても見なかったよ」


 ハハハと社長は笑っているが、社長への視線は冷やかになるばかりだった。

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