第6話 社長の家
「心霊現象というのは、怪奇現象の中でも『原因が人にある』ものだと考えてる。」
そう言って社長はおびただしい数の『自称呪物』を眺める。
「今は海外の個人出品も、ネットで簡単に買えてしまえるから、随分大量に集まってしまってね」
「これだけの数となると、金額もかなり掛かってそうですね」
「そうでもないさ。有名な曰くがあったり、高価な素材が使われていたりしない限り、呪物は二束三文でも手放したい物だからね」
確かに、人形や木彫り細工が多く見えるし、そんなものなんだろう。
「また、ガラスや陶器といった割れ物は、壊せばそれで終わりだから、よっぽど価値がある物でない限りは偽物だ」
偽呪物が金になる時代か、世も末だな。
「で、社長。結局何すれば?」
社長が言うには、最近になってドアを思いっきり叩いたり、食器や壁掛け時計なんかを破壊したりと、過激な心霊現象が起きているが、そもそも呪物を買いすぎて原因が分からなくなったので、その特定をして欲しいとのこと。
謝礼が無ければ社長相手でも帰っていた所だ。
呪物をざっくり半分にして、室内に残す物とダンボールに詰めて倉庫に預ける物に分ける。
両方カメラで監視して、異常があった方を再び半分にする。この繰り返しで、原因を特定しようと思っていた。
「なんでどっちも動き回ってるんだ」
社長のコレクションは本物ばかりだったようだ。こうなったら、『どちらかといえば激しい方』という、曖昧な基準で判断することになるが、それで正確に特定できる気がしない。
「これ使えるんじゃない?家燃やしたっていう曰くがある奴なんだけど」
そう言って社長がダンボールから取り出したのは、ウィジャボード。つまり、海外のこっくりさんだ。
「社長は、呪物を使って呪物に呪物を特定させようって言うんですか」
「待ってゲシュタルト崩壊した。でもたぶん合ってる」
「私の問い掛けに答えてくれるなら、Yesにお越しください」
ロウソクの明かりがゆらゆら揺れ、呪物と暗視カメラに囲まれた状態でウィジャボードに向かう。
文字を指し示すための木製の板(プランシェット)がゆっくりと動いてYesを指す。
「ありがとうございます。続けて、私の問い掛けにお応えください。最近、家の中で暴れている方を知っていますか?」
一度定位置に戻ったプランシェットが再びYesを指す。
「ありがとうございます。その方の特徴を教えてください」
G、R、E、E、N、H、U、M、A、N、緑の人形か。
辺りから緑が使われている人形を集める。これだけでもう5体まで絞り込めた。
「ありがとうございます。その他の特徴を教えてください。」
R、E、D、S、T、R、I、N、G、赤い糸。
集めた中の一体の腹部が、赤い糸で縫い付けられている。こいつだ。
「ありがとうございました。元の場所にお戻りください」
もはや自分で動かしているのかというくらい滑らかに動くようになったプランシェットが、初期位置に戻る。俺としては、さようならのつもりで言ったので、GOOD BYEの位置に行くかと思ったが、伝わり損ねたか?いや……
「何か伝えたい事があれば、教えてください」
P、R、E、S、I、D、E、N、T、社長。なるほどね。
「ありがとうございました。社長には私から言っておくので、お帰りください」
プランシェットはあっさりとGOOD BYEを指した。
「原因はこの人形と特定できましたが、社長は俺と、この人形に何か言う事があるんじゃないですか?」
「ああ、ごめん。ひとりかくれんぼ中断してそのまま忘れてたよ」
いくら呪物を集めても、結局一番強いのは本人に対しての恨みなのだろう。それが物であれ人であれ。
社長はルール通りにひとりかくれんぼを終わらせ、元の平穏を取り戻した。呪物が動き回る平穏とは一体?
「次は大沢君がひとりかくれんぼしてみないかね?」
「いくら積まれたってやりませんよ」
社長からの依頼は、今後絶対に受けないと心に誓った。
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