第4話 廃旅館

 この旅館には、三度解体業者が入っている。しかし、機材の故障、居ないはずの人物の目撃、挙げ句事故による死傷者まで出て、完全に解体作業が停止している。


「結構、営業当時の物って残ってるんですね」

「管理はずっとされていたようだから、荒れてもいないな」


 フロントは、人が居たら営業中と言ってもおかしくない程に整っている。敷地面積自体は大して広くないが、地上三階地下一階という縦長の大きな旅館だ。

 一階は綺麗だったが一部の部屋に物が詰め込まれていて、二階は備品が完全に無くなっており、三階になると壁紙まで剥がされてモルタルが剥き出しの寒々しい風景が広がっていた。


「壁紙が無いのに窓ガラスが残ってて、不思議な解体の進め方に思えます」


 事故の多発により、軽く手を付けるだけで撤退していったのたろう。天井も、電気のスイッチも残っている。

 トレイルカムを配置しながら一階まで戻って来た。


「フロアガイドには地下が載ってませんね」

「地下はボイラーや倉庫など、客に関係の無い設備だけだから載せてないのだろう」


 従業員控室の隣に下り階段を発見する……が、明らかに淀んだ空気が流れている。


「地下はカビや埃が溜まりやすいから、N95マスクを着用しよう」


 N95マスクは息苦しさを感じるほど強力な防護性能があるため、主に医療などに使われるが、一般人でも普通に買える。

 喋るゆとりを無くしながら、地下にもトレイルカムを設置する。


「なんかあの地下おかしくないですか?」


 思い返してみても、おかしな所は無かったように思える。


「フロントに神棚があるのに、地下にも神棚があったんですよ」

「それは盲点だった。もしかすると原因はそれか」



 後日、トレイルカムを回収して検証を行った所、旅館の全域で不審な『もや』が確認された。

 地下の神棚を原因の第一候補として、今度は単独潜入を試みる。

 真っ直ぐ地下に向かい、トリフィールドメーターを試すも反応なし。しかし、スピリットボックスの電源を入れた瞬間、うめき声のようなものが入った。

 その後、念の為三階まで確認してみたものの、変わった事は確認出来なかった。



「単独で何も無かったという事は、取り壊しに反対しているだけの可能性がある」

「でも、それじゃ解決出来ないですよね、神棚自体も壊せませんし」


 自身の撮った映像を見返しながら雑談していると、何か引っ掛かるものがあり、うめき声らしきものに集中する。


「うえ、と言っているのか?」


 今度は地下ではなく、一階の映像を確認していて、ガラクタの山を見ている時に気が付いた。


「神棚は元々、二階と三階にもあったんだ」


 ガラクタに埋もれた、神棚の残骸。これのせいで事故が起きていたのだろう。


「科学でできることは終えた。あとはプロに任せよう」



 神社に連絡し、適切に神棚を処分してからは、無事に解体工事が再開されたそうだ。

 科学で解明できないのではなく、まだ解明する方法が確立されていないだけという言葉を聞いたことがあるが、こういった件に関しては何百年経っても未解明のまま放って置かれている気がする。

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