第3話 変な家
「新しく配属されました神谷守です。よろしくお願いします!」
「怪奇現象対策課、課長の大沢だ。これからよろしく」
今回の依頼は、購入した人が一ヶ月も経たずに出ていく曰く付きの家の調査だ。元住人によると、誰も居ないはずの部屋から足音がしたり、ドアがノックされたり、ドアノブが勝手に動いたりなど、人の気配が凄いらしい。
二人になったとはいえ、二階建ての一軒家を全てカバーすることは出来ないため、トランシーバーと大量のトレイルカムを支給してもらった。
トレイルカムとは、赤外線感知式の暗視ビデオカメラで、一般には野生動物の観察に使われる。電池式なので、電源を入れて置いておくだけで動く物があったときに自動で動画を撮ってくれる優れものだ。
尚、大量に撮れる動画の検証は、社員で手分けして行われる。心霊動画作成者との違いは、人海戦術によって情報の取りこぼしを無くせる点にあると社長が言っていた。
「一階へのカメラの設置は任せた。俺は二階へ行ってくる」
「わかりました。何かあったらすぐ連絡します」
電気が通ってなくて昼でも薄暗い中、懐中電灯の明かりを頼りに階段を登る。
階段のギシギシという音も、やけに大きく聞こえる。
二階の部屋と廊下に、なるべく死角が生まれないように、トレイルカムを対角線上に配置していく。
自分が歩く音とは別に、後をつけて来る足音が聞こえる。音の反響や家鳴り、神谷君の音とも違う、ズレて鳴る余分な音がある。
「一階の配置終わりましたドーゾ」
「こちらも終わったので先に家から出ていてくれどーぞ」
玄関ドアが軋む音が二階まで聞こえてくる。と同時に、背後の気配が距離を詰めてくる感覚に襲われる。
まずい、早く俺も出なければ。早足で一階へ向かおうとするが、滑り止めの効いた真新しい屋内シューズが、階段に拒絶される。
「うおおおお!」
階段を転がり落ちて腕を捻挫した。調査を中断し、病院だな。
課長が念の為に病院で精密検査を受ける事になってしまったので、今日は一人でトレイルカムの回収だ。
「おじゃましまーす」
トレイルカムのスイッチを切ったら、そのままリュックに放り込む。
一階は何事も無く回収出来たが、課長が怪我をした二階は流石に緊張する。ひとつ、ふたつ、順調に回収していき、何かが居るような気配も無い。
結局、何事も起こらないまま全て回収し、問題無く会社に戻る事が出来た。
「労災は下りたが、こんなものは損でしかない。神谷君は怪我しないように」
調査が少しづつでも進んでいるかと思っていたが、実際は暗礁に乗り上げていた。トレイルカムに、一切の反応が無かったのである。
「やっぱり、乗り込んで調査するしか無いんでしょうか」
「情報が無い以上、それしかあるまい」
今度は単独行動を避け、常に二人行動をすることにして再度家に突入する。
「おかしいな」
「何かありましたか?」
「前回は誰かの気配があったが、今回は一切の反応が無い」
一応トリフィールドメーターも付けているが、もちろん反応は無い。
「仕方ない、神谷君は外に出ていてくれ。俺は一階だけ見て回る」
一人で家に入ると、明らかに空気が変わっていた。廊下の奥からギシギシと歩み寄ってくるような音が聞こえ、入って僅か15秒で外に出た。
「神谷君は霊に嫌われる体質のようだね」
神谷君は喜ぶべきなのか微妙な表情をしていた。
「だか、ようやく目星がついた。霊が動き出す起点となり、前回の調査で見落としていた場所だ」
「そんな所ありましたか?」
「階段だよ」
神谷君に階段前にトレイルカムを設置してもらい、後のために大家に連絡を取った。
「階段の解体ですか?今のままでは買い手も付きませんし、構いませんよ」
階段前のトレイルカムは、何も写ってない状態で一晩に12回も録画をしていた。当たりだ。
電動工具を使って神谷君が階段を解体する。
「祠だ。初代の大家が隠したまま家を建てたのだろう」
今回の件は散々だった。怪我はするし、土地自体の問題だった事から完全解決もできず、個人的な謝礼も当然ながら存在しない。
神谷君が非常に頼りになるという事が分かっただけ救われたが、調査の際は結局単独行動ということになる。
危険かどうかも調査しなければ分からないので、危険手当なども付かない。
内心早まったかという気持ちもあるが、預金額を見ると、後悔が溶けてゆく。
願わくば、次は楽な仕事を。
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