第2話 キッチンのポルターガイスト
どうも社長は心霊動画ファンだったらしく、入門セットなるものを支給してきた。
スタビライザー付きカメラ、トリフィールドメーター、スピリットボックスの三点である。
スタビライザーは手ブレを抑制し、撮影の補助をしてくれる。
トリフィールドメーターは交流電界、交流磁界、マイクロ波の三つを測定するもので、電気の通っていない場所で電気的性質を持つ幽霊が居ないか見たり、マイクロ波に含まれるラジオ波が有るかを確認する為に使われる。
スピリットボックスはラジオの周波数を高速で切り替える事で、混線した幽霊の声が聞こえるかもしれないとのこと。不自然なラジオ波を検知したらスピリットボックスを使えと社長に言われた。
依頼を終えたら撮影したデータは全て社内で共有されることになったので、下手な発言はできないなと考えつつも、本日の依頼先へ向かう。
幽霊とは無縁そうな閑静な住宅街にある、大きな屋敷。門の前で依頼者が直々に出迎えてくれた。
「遠い所済まないねぇ、最近キッチンで幽霊が暴れてて困ってるのよ」
「いえ、仕事ですので何か有りましたら遠慮なく仰ってください」
キッチンだけで暴れるとは、どうにも不思議なものだが、何にせよ実際に確認しなければ始まらない。
一通りの家電が揃っていながら広々とした空間を確保できているキッチンは、荒れている様には見えない。
とりあえず私物のカメラは定点として机上からキッチンの全景を捉える。
手持ちのカメラでもキッチンを写そうとした時、急に鍋の蓋だけが回転しながら飛び上がった。
「ほら、こういう事あるのよね」
俺には相当な異常事態に見えるが、何でも無い事のように蓋を元の位置に戻していた。
「じゃあ、後はよろしくお願いします」
「任せてください、必ず解決してみせます」
とはいえ、どう着手すれば良いかも分からないので、とりあえず社長に貰ったトリフィールドメーターをマイクロ波検出に合わせる。
周辺を歩き回っても数値に大きな変動は無い。
と、いきなり急激に数値が跳ね上がり、アラート音が鳴ると同時に、再び鍋の蓋が跳ね上がった。
「社長のアドバイス通りに幽霊の証拠が集まっているな」
お次はスピリットボックスだ。ザッピングを開始するとザザザと断続的にノイズが聞こえ始める。
事前に調べた使われているラジオ周波数を除くと、何らかの音や声が入る様子は無い。
しばらく続けていると、ノイズ自体が大きくなっている感覚があり、再び蓋が飛んだ。
「何かがおかしい」
科学者としての勘に従い、トリフィールドメーターを磁界検知に合わせて検証する。
「なるほど、これは科学の勝利ではあるものの、科学の敗北でもあるな」
結論から言うと、今回の件は心霊現象ではなかった。
大型家電は、耐用年数が過ぎてもメンテナンスもされずにそのまま使われ続けている事が多々ある。安全装置が運悪く故障したIHヒーターが、断続的かつ瞬間的なショートにより強力な磁界を発生させ、偶然鍋の蓋だけを弾き飛ばしていたわけだ。
最悪の場合、磁界と金属の条件次第で包丁が飛び交っていたかもしれない。
万が一の事態を想定して、おかしな事が起きたら即座にどこかしらに相談することをおすすめする。
依頼者には感謝されたものの、社長は心霊現象ではなかった事が不満だったらしく、次回はより怖そうな案件と、新たな支給機器、そして怪奇現象対策課の増員が決定された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます