恐怖体験

ラブホをチェックインし、桐乃さんを家まで見送り、真っ暗で誰もいない住宅街を一人で歩く。


...なんかラブホにいる間は謎に冷静だったけど、普通にめっちゃ大事じゃね?


だってもう俺ってチェリーボーイじゃないってことやろ?

今まで通り、大学生になって、とある日の合コンで童貞だってことがバレ、参加していたイケメン女子に食われる、みたいなシチュエーションを妄想できなくなるってことやろ?


...なんか一概には喜べない、複雑な感想だな。


もう今日からは、今まで何人もの女性とヤってきて、自分が強いオスであると調子に乗っていたらある日性欲が強い女性をナンパしてしまって、そのままホテルで自分が雑魚オスだっていうことを自覚させられる、みたいなシチュエーションをオカズにするしかないな。


クソ、こうなったら涙声で桐乃さんに、"ぼくをメスにしてください"とか言えばよかった。


そうすれば貞操を守ることができて、なおかつ念願のメス堕ちを体験することができたから一石二鳥だったのに。


もうこうなったら初めてメス堕ちするときは桐乃さんを煽るに煽りまくって、めっちゃ力強く体を動かしてもらう。


今度はどんな感じで煽ろうか。


そうだ、中学生の時に実は何人もの女子に集団で犯されたとか言おうかな。

そうなれば桐乃さんの本能もメスからオスに変わって性欲が爆発するだろうし。


何だったら、凛華か歩歌にヤられたっていう設定も。


いや、それはあかんな。

超えちゃいけない一線を越えとる。


桐乃さんの知らない女子にヤられたっていう設定にしないと。


俺がいろいろと激しくメス堕ちさせられるための煽り方をあれこれ考えていると、俺の家が見えてきた。


「電気は...ついていないな」


とりあえず一番危惧していたことがないことを知り、安心して家の前まで向かう。


玄関のかぎを開け、中に入る。


「......」


玄関で一度立ち止まり、目と耳を澄ませて誰かの敬拝がしないかを探す。


「...しないな」


とりあえず一階には誰かが起きている気配がしない。


ということは全員二階にいるということだが、まぁ十中八九自室にいるのだから何も心配ない。


ラブホで何時間か寝ていたというのに、もう眠気が襲ってきた。


俺はリビングに入ることなく二階へと上がる。


...本当だったら一発自慰したいが、こうも眠いとそうもいかない。


よし、明日朝起きたらすぐに、今日のラブホで桐乃さんから言われたことを思い出してそれをオカズにしよう。


そう決め、二階につき、自室を目指す。


「ん?」


俺の部屋は階段を上って壁を曲がったところの奥にあるのだが、今、なんか人影があったはず。

それを見てとっさに階段の方へと戻り、身をかがめる。


い、いやぁ~まさかな。


そんな真夏の恐怖映像みたいにもろにそこにいるとかはないや


「......」


いや、完全に誰かそこにいるな。


え、この家ってまだ築年数浅いよね。


というか俺たちが引っ越してきたときって新築じゃなかったっけ?


だとしたら事故物件ってこともありえんよな...


もう一度奥をチラ見みる。


暗くてよく見えないが、人が立っているのだけは確かだ。

しかも俺の部屋のドアの前に。


ってことは、まさかこの家じゃなくて俺の部屋の中に憑いているってこと?


いや、俺は何もそういうことしていないが...

別に友達と心霊スポットを行ったことがあるわけでもないから、俺が引き込んだとも考えられないしな。


あ、まさか、俺の日々の自慰行為が原因か!?


よく自慰行為を一度するだけで何人もの生まれるはずだった命を殺していると聞いたことがある。

まさかその怨念の集合体があれなのか?


だとしたら、ほぼ自分みたいなもんだから別に怖がる必要もないな。


俺はそう自分に言い聞かせ、階段から身を出し堂々と自室へと向かう。


ドアに近づくほどだんだんその人型のシルエットの正体が明るみになってきた。


「!?」


もう前の前に来た時にやっとその人影の全貌が見えた。


「り、凛華」


なんとそこには、もう夜中の一時、いや、それはラブホで目を覚ました時刻だからおそらく夜中の二時を回っているというのに、俺の部屋の前に凛華が立っている。

無表情で。


...うん、確かにこれは真夏の恐怖映像やね。

もう夏終わったけど。


「清人、帰ったのか」


近くまできてやっと俺の存在に気づいたのか、はたまたとっくに気づいていたのかは分からないが、凛華は瞳では俺をとらえ、表情を動かさない。


「あ、ああ。ただいま。それで凛華、こんな時間に何を」


「決まっているだろう。お前を待っていたんだ」


だと思った。

選抜リレーのときに話があるとか言っていたし。


本当はもう今すぐにでもベットの中に入りたいが、どうやらそれは敵わなそうだ。


「こんな夜遅くに帰ってきて、もう寝たいのだろう」


俺の閉じかけている瞳を見て察したのか。


対する凛華は全く眠たそうではないが。


「なら今すぐにでも眠るがよい」


え?いいの?


凛華に訊き返すこともしなく、すぐにドアノブに手を回そうとしたが、それよりも先に凛華が口を開いた。


「もっとも、お前が眠りにつくのは自室のベットではないがな」


「え?そ、それはどうい」


最後まで疑問を口にすることはできなかった。

その前に頭に鈍い音が響き、視界が暗転したのだから。

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