逆分からせ

「改めて体育祭お疲れ様、清人君」


打ち上げが終わり、皆とはぐれたころにもう一度桐乃さんがねぎらいの言葉をかける。


「俺は何もしてないよ。実質桐乃さんの一人勝ちだったし」


「そんなことないよ。清人君の選抜リレーのときもう息が絶え絶えのなか、無理やり足を動かしていた姿、可愛かったよ」


...かっこよかったじゃなくて可愛かったのか。

いいねぇ、そういう少しシンプルに見下す発言をちょくちょく混ぜてくる姿勢、ポイント高いよ。


「打ち上げも楽しかったね」


「ま、まぁ」


全く楽しくなかったです。


恐らくこれは桐乃さん以外の全員が声には出さないけど心の中では思っていることだ。


比較的学校から近いファミレスで、全員で夕食を食べたのだが、桐乃さん以外は特に頑張っていなかったら、互いに体育祭のことを話そうにも話すことがなかった。

そりゃ桐乃さんの恐怖政治を含めれば話すことなんて山ほどあったけど、桐乃さんがすぐ近くにいる中で、そんなことができる勇者は俺たちの中にはいなかった。


これだけじゃただの食事会と思われるかもしれないが、そうじゃないねん。

食事中に桐乃さんが一人一人に今日の体育祭の感想を訊いて回るんや。


それで、桐乃さんが好まないような感想を言ったり、あまりにも抽象的な感想を言おうもんなら、桐乃さんが圧をかけてくるねん。


女子の中には小さく泣いている子もおったわ。


てなわけで、桐乃さん以外には打ち上げというよりも、反省会な雰囲気だった。

まぁ桐乃さん自身一年Aクラスに勝ったのだから終始ご機嫌ではあったが。


「ねぇ清人君、この後どうしようか?」


「え、どうするって、普通に帰るんじゃないの?」


え、だってもう普段でも夕食を食べ終わってペニスエクササイズかお風呂に入っている時間だよね?

それにさっきの打ち上げ中に凛華が俺に寄り道しないでまっすぐ帰って来いと忠告していたことを思い出して冷汗かいたから俺としてももう帰りたいんだけど。


「あのさぁー清人君」


桐乃さんが少し不機嫌そうに絡む。

...地雷踏んじゃった?//


「今わたしと二人っきりなんだからもう少し空気を読んで発言してくれないかなぁー」


俺としては桐乃さんが二人っきりのときに機嫌悪くなるのは大歓迎なのだが、桐乃さんが求めていることが分からない。


「ん?えーっと、空気を読む発言というのは?」


「もう、それ、わたしに言わせるの?」


今度は照れ始めたぞ。


...桐乃さんが照れる姿見るの何だかめっちゃ久しぶりな気がする。

それ以前に健全な桐乃さんに長い間会わなかった気もする。


「ほら、ここら辺の通りよく見て」


桐乃さんに言われた通り、今俺たちが歩いている周りを見渡す。


...別に少し繁華街に入っただけだと思うのだが...


「どう?気づいた?」


「ご、ごめん。つまり...どういうこと?」


「もう!ちょっと鈍感が過ぎるよ清人君!」


頬を含まらせて可愛らしく怒る...にしてはちょっと声のボリュームが大きくないっすかね。


「ほら、そこを見て」


桐乃さんが指さした方を見てみると...


「!?」


その"怪しい色をしているホテル"を見てすぐに察した。


ってかなんで俺気づかなかったんだ?

もうすぐそばにあったやん!


「ねぇ、ここまで言えばもう分かるよね」


つまり、桐乃さんはもう今夜俺をメスに堕としたいと...そういうわけですな。


そんな...まだ高校生に身で

今年大学受験を控えている身として

そんなこと...


めっちゃ大歓迎ですっ!!!!!!!!!!!!!


うわーそういうことする予定だったらもう昨日のうちに言っといてくれよ桐乃さん。


それだったらいろいろと桐乃さんの嗜虐心を煽るようなシチュエーションめっちゃ考えていたし、必要なオモチャも年齢を偽ってショップで買っていたのに。


「ほら、早速行こ、清人君」


もう即興でシチュエーションを考えるしかないな。


だいたいこういうときってすぐに従うんじゃなくて少し歯向かっ方が興奮するんだったよね。


「い、いやぁーもう夜遅いし、帰った方がいいんじゃないかな」


「どうせ明日休みなんだしいいと思うよ。ほら、分かったなら早く行こ」


「で、でもまだ俺たち高校生なんだしそういうことは...」


「まだ高校生だからこそ今のうちに清人君にいろいろとマーキングしておかなくちゃね、ほら、行くよ」


ムカついてきたのか、だんだんと俺の手を引っ張る桐乃さんの力が強くなっていく。

よし、ここでもう一段階。


「お、俺には凛華と歩歌」


「...ここでその二つの名前を言うなんて、なかなかいい度胸しているね清人君」


と、次の瞬間


「あがぁ」


思いっきり首に腕を回され、首絞めに近い状態となる。


「もう、今夜はきみが誰と一緒に、そして誰と将来を歩むかを徹底的に分からせてあげるから。寝れると思うなよ?」


「は、はいっ!」


こうして桐乃さんの嗜虐心をぶち切れさせるのに成功した俺は、そのまま動けないように首を固定され、紫色に光るホテルの中へと連行されていった。

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