死のカーブ

高まる緊張の中、俺たちは今二回目の選抜リレーを観戦している。

やはり二百メートルということもあり、走っている生徒の顔は赤く苦しそうだ。


なんか結構容姿が整っているこの顔面が疲れで崩壊しているのを見るとムスコが萎えるっていう同志いない?

なぜか一二年の選抜リレー参加者の美女率が高いんだが。

てか今更だけどなんで男女混合なの?

それでいてなんで参加者は女子の方が割合高いん?

まぁ、我が校にそれほど運動能力が高い異性がいるのは喜ばしいことだが。

運動できる=性欲が強いって言うしな。


いやーそれにしても三年生が弱い。

一二年はバトンを渡すときにもうこっちまで聞こえる声で"はい!"と言っているのに対して、もう三年生はやる気なさそうに無口でほぼ歩いている。


一回目なんて周回遅れのクラスもあった。


あ、もうアンカーにバトンを渡されたからいよいよ俺たちの出番やん。


ちなみに、我がクラスの四走目、アンカーは桐乃さんで三走者目が俺。


でも、大体リレーは三走目に比較的遅い奴が来るって言うやん。

今俺と一緒の地点で並んでいるこいつらも見た感じ遅そう...でもないな。


何だったらよくグラウンドで練習している奴いない?


「では、これより、三度目の選抜リレーを開始いたします」


対戦相手を観察していたらもうそんなアナウンスが流れた。


ちょっと一走目と二走目頼むで。


滅茶苦茶をつけてバトンを渡すか、逆に滅茶苦茶差をつけられた状態でバトンを渡すかのどちらかにしてほしい。

最悪なのが、大体六人全員の差があまりないまま俺にバトンが渡されるということ。


もうそんなことになったら、俺が大戦犯として晒されるのは確定だからな。


さっき三走目は比較的遅い奴が集まると言ったが、それはあくまでクラスで選ばれた代表の中で遅いだけで、平均よりも全然速い。

そんな肉食系の中に俺が放り込まれたらもう一瞬で食われちまうよ。


もう一走目はクラウチングスタートの準備している。


いよいよ俺も走らなくちゃいけないのか...


ふと、Eクラスの陣地の方を見てみると


「うわぁ...」


目を充血させながらも、何とか寝るのを我慢して立ち上がり俺たちの方を見てるやつが多い。


まぁ桐乃さんにあんな脅され方したんだから無理ないか。


「位置について」


あ、もうほんとに始まるやん。


多分すぐにバトン渡されるからもうもらう体勢を作っておかないと。

えーっと、確か片足を一歩前に出して体も前の方に傾けるんだったよな。


「よーい」


破裂音が聞こえ、一走目が一斉にスタートダッシュを決める。


やはりクラスの代表なだけ会って誰一人として失敗していない。


二百メートルだというのに、そのまますぐに二走目にバトンが渡される。


こうしてみると、つくづく二走目じゃなくてよかったと思う。


二走目はカーブがないため、ずっと一直線で走る。

そうなると、顕著に足の速い遅いが現れる。


というかもう目の前まで来てる。

こんなに二百メートルって短かったっけ?


って、ちょっと!?

もう俺の出番だというのに全然差がついついていないぞ!

え?俺ってこんなに僅差で走らなくちゃいけないの?


「濡髪君!」


二走目に女子にデカい声で名前を呼ばれ、一位か二位でバトンを渡される。


こうなた以上一応全速力で...ってあぶな!?


ちょうど俺が走り出してすぐのところにカーブがあり、思わずそのまま滑りそうになる。


っていま体を制御した影響でもう二人ぐらいに抜かれんかった!?

幸い、美女の顔面崩壊を見てきたおかげでムスコは勃っていないというのにどんどん抜かされる。


カーブを抜けだしたときにはもう後ろに誰もないな感覚がした。


てかカーブを抜け出したらゴールじゃないの!?

まだ結構先に桐乃さんが見えるんですけど。

滅茶苦茶長いやん二百メートル。


あと、全然クラスの応援聞こえねーし。


そこからはもう完全に疾走しながらも、順位という概念を考えることなくただひたすら走った。

胃の中が逆流するぐらい走った。


「清人君、頑張ってー!」


と、ここであの美声が目の前で聞こえてきた。


顔を上げるとそこには元気よく手を振るう今この瞬間だけは以前の天使と同じ桐乃さんがいた。


もう桐乃さんと隣に誰もいない気もしたが...まぁ、そこは考えないでおこう。


「き、桐乃さん...」


精いっぱいの喘ぎ声を出しながら桐乃さんにバトンを渡し、そのまま横に倒れそうになる。


バトンを渡すと、桐乃さんが猛ダッシュし、その影響で風が体に当たった感覚がし、なんとか倒れそうになる体を抑えた。


でも、正直俺が最下位でバトンを渡したとしても桐乃さんなら何とかできるだろう。

そんな軽い気持ちで桐乃さんが走っていた方に目をやると、俺は見てしまった。


桐乃さんよりも少し先に凛華がゴールしてしまったのを。

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