実質桐乃さんだけの大繩

「次は大繩か...」


玉入れが終わり、二年生による世にも気色悪いダンスが終わり、いよいよこれまた全学年参加の大繩が始まる。


放課後練習ではかなりの日数大繩を練習したが、二桁を超えられたのは一、二回だ。


これ、全員が本番にめっちゃ強いタイプとかじゃないと敗戦確定じゃね?


いつものように行進しながら、自分のクラスの大繩の範囲まで行く。


「はい、それじゃー今度は背の順に並んでね」


ってかこれずっと思っていることなんだが前列の方がキツない?

だって自然と中央よりも高く飛ばなくちゃいけないやん。


かと言って、今更桐乃さん相手に抗議したところ、結果は丸見えであるためもうとにかく足をぎりぎりのところにあげるというのを意識するしかない。

序盤から足を高く上げ過ぎたら絶対に体力が持たないからな。


「いいみんな~。これは練習で何回も言っていることだけど、とにかく全員が足並みをそろえることが重要だからね」


それはそうだが、俺の場合前列であるため、足並みをそろえる基準となる者が少ない。


「それと、一回一回みんなで回数を声に出して飛んでね。そうしたら自然に体がテンポを覚えてくれるから」


確かに、練習でも名前を声に出したら二桁超えることができたしな。


「それではこれより大縄跳びを開始いたしますので、各クラスは自分のクラスの位置についてください」


他のクラスも続々と列を作っていく。


こうしてみるとほとんどのクラスが俺たちと同じく背の順で並んでいる。


「それでは、よーい」


鉄砲の音と同時に、続々とクラスが始めて行く。


「それじゃあ行くよー。いっせいいの」


「「「「「「「「「「「「せい!!!!」」」」」」」」」」」」


お、今回はせい!でしっかりと縄が来た。


練習じゃこのせい!で躓くことも珍しくなかった (というかほとんどが一回目でつまずいた」


「「「「「「「「「「「「2!3!4!」」」」」」」」」」」」


次々に数を声に出して飛んでいく。


一見するとクラス全員が腹から声を出して数を数えているように聞こえるが、実際にはそんなの桐乃さん一人だ。

桐乃さんの数を数えるがあたかも全員が数えているように聞こえるだけだ。


それにしても桐乃さんの大声って、確かに音自体は大きいが、聞いていてあまりうるさいと言った不快感がしないから、まったくストレスにならない。

むしろ俺の急所に元気を出してくれる。


いや、それはまた違った意味で害悪か...


「「「「「「「「「「「「18!19っ」


と、19回目で誰かが引っかかり終了した。

そして他のクラスはどうなのかというと


「「「「「「「「「「「「......」」」」」」」」」」」」


おそらく今全員が、ほとんどのクラスがまだ飛び続けているということに茫然としただろう。


今は偶然にも誰かがミスで引っかかるという形で終わったが、全員の息が上がっていたし、あそこで引っかからなくてもあと何回か飛べば体力の限界で引っかかるのは目に見えていた。


さて、みんな気になる肝心の桐乃さんはというと。


「...まぁ今のはドンマイだね。大丈夫、誰にだってこういうことはあるから」


意外と怒ってなかった。

怒ってはないが、だいたいこういうときの"誰にでもある"というセリフはイライラを必死に抑えているときに出てくる言葉だ。


「怒ってはいないんだけどさ...一応、今引っかかった人は自己申告してくれるかな」


あ、やっぱりイライラを完全に沈めることはできなかったんやね。


っておい、なんでお前らまた俺を見るんだよ。

まさかまた俺に挙手させるっていうわけじゃないよな。


...まぁ、確かに俺なら桐乃さんも下手に怒れないし、もしかりになにかお仕置きでもされても、俺ならご褒美に変換されるって言うのもわかる。

だから...また俺が挙手するしかないの


「は、はい...」


と、俺が挙手するよりも早く、前列らへんにいた女子が涙目になりながら挙手をした。


「んー?手を挙げたって言うことは、きみが引っかかったのかな?」


「は、はい...わたしがうっかりしちゃって」


声も少し震えている。


さすがにあそこまでな状態になっている女子に桐乃さんも何か特別に罰を与えるとかはしないだろうな。


「あー、もうそんなに泣かなくて大丈夫だよ。怒ってないって言ったじゃん」


桐乃さんがその女子の頭を撫でながら宥める。


...もうやり口が完全にDV彼氏/彼女なんよ。


「はい、みんなもあんまり責めないで上げてね。さっきも言ったけど誰だっていろいろとコンディションとかがあるから」


責めようとしていたのは桐乃さんだけのようにも見えるが。


「ほら、みんなまたしっかりと列作って、多分もう多くのクラスが引っかかっているからそろそろ二回戦目が始まるよ」


そうだった。別に一回で終わるというわけじゃないのか。


「じゃあ、きみ、...次は引っかかっちゃ...だめだよ」


「ひっ!」


宥められていた女子の体が一瞬震えた。


今、桐乃さんがどんな顔をして忠告したのか、背を向けている状態のためここから出は見えないが、多分今ので誰しもが恐怖心から無理やり足を動くように体を改造されただろう。

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