視野の広い桐乃さん

凛華と共にグラウンドの前まで着いた。


凛華は俺が温めを要求してこなかったため少し不服そうだ。


「じゃ、じゃあ凛華、俺はこれで」


「そうだな。体育祭でのお前の活躍、楽しみにしている」


凛華と別れ、自分のクラスの陣地を目指す。


なぜこうもついた途端に凛華と別れたのかというと、当然桐乃さんの目がどこにあるのかが分からないからだ。

桐乃さんは今日俺と凛華が一緒に登校してきたなんて夢にも思っていないはずだ。

もし一緒に登校してきたのが桐乃さんにバレたら。


「//////」


まぁその展開を求めている自分もいるというのは否定しきれない。


「三年Eクラス三年Eクラス...あった」


三年Eクラスと大きく書かれた旗を見つけ、その地点に足を進める。


「お、清人、意外と早かったな」


陣地にはテントが張られ、椅子が並べられてあるのだが、そこにもう赤沙汰は座っていた。


「そういうお前はいったい何時ごろに来たんだ」


「いや、俺もついさっきたんよー。いやー昨日夜更かししたからちょっと眠いんだよねー」


大体こういう奴に限って一時間前とかに来ていたというのが定番だ。

しかも夜更かしアピールとか痛いな。


それだったら性欲ないアピールした方がまだ女子からの反応はいいぞ。

...俺も今度やってみようかな。


陣地にはまだ赤沙汰以外あまり来ていない。

もうそれだけでもやる気のなさがうかがえる。

桐乃さん不機嫌になんないかな...?


「にしても一二年は本当に偉いよな。もうほぼ全クラスが集まっていろいろと打ち合わせをしているし」


いや、お前も大概だろう。


でも確かに赤沙汰の言う通り、今年の一二年はやる気に満ち溢れている。

去年、一昨年の俺たちは絶対こんなやる気じゃなかった。


全員集まるどころか、半分以上がサボって出場停止になったクラスとかあったな。


そういえば、桐乃さんとは今年初めて同じクラスになったのだから分からないが、去年一昨年の桐乃さんはどんな感じだったのだろう。


少なくとも俺の見た感じだとどのクラスも凄いやる気のあった生徒はいなかった覚えがある。

てことは当然桐乃さんもあまり真剣には取り組まなかったということになる。


ではなぜ今年だけこんなやる気になったのか。

もちろん人生最後の体育祭ということもあると思うが...やはり、俺と凛華の存在が影響しているのか?


「て、なに英語のテキスト開いてんだよ赤沙汰」


「うるせぇ。俺には勉強を教えてくれてなおかつ性処理もしてくれる心優しい彼女はいないんだ。こういう空き時間を使うしか残された道はない」


やっぱりずいぶん真面目なんだなこいつ。

夜更かししていたって言うのも、実は夜遅くまで勉強していたというな


「誰が性処理をしてくれるのかな?赤沙汰君」


「ぬわぁ!?き、桐乃さん」


いつの間にか桐乃さんは俺たちの後ろに立っていて、俺たち二人の会話を聞いていたらしい。


「おはよう清人君」


「お、おはよう桐乃さん」


この感じだと...凛華との登校はバレてはいないのか?


「それで赤沙汰君、誰が性処理をしてくれるって?」


あーあ、やっちまったな赤沙汰。

桐乃さんは自分に対してそういう偏見を持たれるのが大っ嫌いなんだよ。

現に前歩歌にセフレって言われて滅茶苦茶効いていたし。


「い、いやこれは違うんすよ。俺の言う"せい"は性欲とかの性じゃなくて、生活の生なんすよ。生処理、つまり清人の生活習慣を見直すって意味なんすよ」


うわーだいぶ日本語不自由になってきてるぞ赤沙汰君。


「ふーん、まぁその話はいいや」


ちなみに、この場合での"いいや"は別に納得したという意味ではない。


「わたしが本当に用があるのは清人君の方なんだ。清人君、ちょっとこっちに来てくれるかな」


ん?なんだ?


とりあえず桐乃さんの後を追う。


すると着いたのはあまり人気のいないグラウンドの箸の部分だった。


「今日の朝、一緒に行けなくてごめんね」


「全然大丈夫だよ。桐乃さんが代表者として朝に準備があるのは知ってたし」


「事情を知ってくれているのならよかったよ、それでなんだけどさ」


桐乃さんがこちらに近づいてくる。


おお、この追い詰められている感、たまりませんなぁ~//


「今日、なんで凛華ちゃんと一緒に登校してたのかな?」


うん、やっぱりバレていました。


桐乃さんはもうすぐ俺の顔とぶつかりそうなぐらいの距離で無表情に俺を見つめる。


...ひぇ//

これなら睨まれた方が恐怖が半減しそうだな。


でも、無表情桐乃さんも今の俺からしたら養分に分泌される。


「あーた、たまには凛華と登校するのもいいと思いまして...」


「へぇー、たまには彼女以外の女と登校することもいいと思うんだー」


桐乃さんが一言ずつ言葉を発していく売りに、声が半オクターブ下がっていく。


「ねぇ、始業式の日もそうだったんだけど、最近やけに清人君て凛華ちゃんのこと意識してない?」


俺が意識しているのもあると思うが、大半は凛華が俺のことを意識しているって言った方が正解なんじゃないかな?


「わたしもさー。ほら、あの名前忘れちゃったけど、清人君の長女みたいにきみのことをまるで所有物かのような言い方したくないんだけど」


こういうときは大体名前をしっかりと覚えていることが多い。


「こんなことが続くなら、きみをわたしの完全なる所有物として扱ってもいいんだよ?」


おお、それはなんと魅力的な...じゃなくて、まずはそれだけは嫌だって訴えるのがヤンデレSSの聞き手としての役回りだ。


「しょ、所有物じゃなくて...恋人関係が...いいです」


「ならそれ相応の態度でいてもらわなくちゃね」


と、今度は桐乃さんが俺の耳元に顔を近づける。


はう...耳舐めされちゃう~//


「次は、ないからね?」


...大体こういうときって、次なんてないよね。

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