体育祭前日
「はい、じゃあ今日の練習はここまでにしようかな。みんな、明日は体育祭本番だから、今までの放課後練習で培った力を十分発揮しようね。それじゃお疲れ様」
最終下校時刻を迎え、俺たちのクラスの放課後練習も切り上げた。
いよいよ明日は体育祭本番。
ぶっちゃけほとんどの三年生にとっては別にあってもなくても変わらないイベントだろう。
こんなやる気になっているのは俺たちのクラス (実質桐乃さん一人)だけだ。
各自荷物をまとめてグラウンドから出る。
だいたいこういうとこに
「明日マジだるいよな~」
「受験生なんだから体育祭なんてやらせている暇があったら自宅学習にしてくれよ」
「もういっそのこと明日サボって塾に籠ろうかな」
と、できもしないことをわざわざ口に出すイキりが湧くのが定番だが、桐乃さんのいる手前、そういったことも軽々しく口にできない。
言論統制されてるやん。
「あ、清人君、一緒に帰ろう~」
練習で使った道具一式を片付け終わった桐乃さんがこちらに向かってくる。
多分俺以外からしてみればもうホラーにしか映らないだろう。
桐乃さんと並んでグラウンドから出る。
「いよいよ明日が本番だね」
「そ、そうだね。桐乃さんは体育祭がそんなに楽しみ?」
「当然だよ。だって人生最後の体育祭だよ!全身全霊かけない方がおかしいよ」
明日の体育祭は、学年ごとに競い合うのではなく、全クラスがそれぞれの種目で獲得できるポイントで競い合う。
つまり必然的に他の学年とも戦うことになるのだが...
まぁ桐乃さんが健全な限り、俺たちのクラスが優勝するのは確定事項だろう。
これは別に希望的観測ではない。
ていうか、別に俺は自分のクラスが最下位だろうか最上位だろうかどうでもいい。
別に何か賞金がもらえるわけでもないしな。
どうでもいいが、おそらく負けることはない。
「...そういえばさ、もう頭は痛まないかな...?」
「頭?」
...ああ、あの夏休みの塾での一件か。
あれは俺と桐乃さんの間で清算したと思っていたが...確か桐乃さんもそう言ってなかったっけ?
「いや、もう全然痛まないけど」
「...そうなんだ」
そう答えると、何故か悲しげな表情をする桐乃さん。
「...それと、首の跡ももう消えているね」
「う、うん。絆創膏が思ってたより効果があってね」
「確か、前わたしが清人君を机に叩きつけた後、おでこに包帯を巻いていたよね。そういう医療器具が清人君のお家には用意されているのかな?」
「用意されているけど、そういうのを張り付けてくれるのが凛華だからこそすぐに傷が回復したりするのかも」
「つまり、凛華ちゃんの手際がいいから清人君の傷がすぐに治るってこと」
「そ、そうだよ」
なぜか深く聞いてくるな。
そんなに気になることか?
「...ホント、どこまでの邪魔な子だね」
「え?」
...今のは"邪魔な子"って完全に凛華のことだよな...
凛華が桐乃さんにとって邪魔な存在というのは常識問題だが...
...なんかいまの話の流れからとんでもない桐乃さんの嗜好の扉が開いたと直感してしまう。
してしまうが...まぁ、それは今考えることじゃないだろう。
「ごめんね、清人君にとっては嫌なことを思い出させるような言い方しちゃって」
「いや、もう完全に痛みは感知したから気にしてないって」
「完全に、ね...」
うん、だからなんでそこでイラつく?
「あ、そういえば明日の綱引きって全クラスのトーナメント式だったよね?」
「あー、そうだったかも」
言われてみればそんな話があった気もする。
「二人三脚と選抜リレーはどうだったっけ?さすがに全クラス同時に走るわけには行かないから、これも何チームかで別れるよね?」
「あー二人三脚は分からないけど、選抜リレーは確か朝一に代表者が集まってくじ引きをするって話じゃなかったっけ?そのくじ引きでどのクラス同士が一緒に走るか」
「その代表を決めるの忘れていたけど...とりあえず、私でいいよね」
「ま、まぁ...そうかな」
桐乃さんがずっと仕切っていたし、リーダーと言われても誰もが納得する。
「そのくじ引きってもう作られているよね?」
「明日の朝一って話だからそうだと思う」
「となると保管場所は体育倉庫か...」
え、保管場所まで確認するってことは...
「ごめんね清人君、わたし教室に忘れ物してきちゃったから戻るね。清人君は先に帰ってていいよ。それじゃあまた明日ね」
桐乃さんは俺の返事を待たずに、学校に逆戻りした華と思うと、もう姿は見えなかった。
「......」
多分あれだな。
明日桐乃さんは凛華のプライドをずたずたに折ろうとしているな。
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