放課後練習④
「うーん、さすがに玉入れは練習しなくてもいいよね」
もちろん今日も放課後練習は開催された。
...ちょっともう十分練習したんでこのぐらいでよくないですかね?
「じゃあ今日は選抜リレーの練習でもしようかな」
確か選抜リレーはこのグラウンドの半分だから一人二百メートルも走らなくちゃいけないのか。
あの百メートルが二倍...
これ、走っている最中にムスコが大きくなったら一発アウトだな...
いや、でも選抜だからな。
足が速いやつが走るんだから。
俺は一応クラスの平均より少し速いぐらいで、もっと速いやつもたくさんいる。
さすがに桐乃さんもここで俺を指名するほど横暴なことはできないよね...?
「まずは選抜リレーのメンバーを決めたいところなんだけど...さすがにこれはわたしの一存だけじゃ決められないよね」
おっ!?
桐乃さんが珍しく譲歩した!
桐乃さんだけじゃ決めないってことは、クラスの意見も取り入れるのか...?
「よし、それじゃあ推薦制にしようか!だれか、このクラスの中で絶対にこの人は入れた方がいいと思っている人は手を挙げてくれるかな?」
...まぁ挙がらないわな。
こういう推薦制って小中のクラスの学級委員を決めるときとかに取り入れられたりするけど、絶対に手挙がんないよね。
挙がったとしても、ただの陽キャ同士のクソつまらん身内ノリですわ。
「ん~いないの?じゃあわたしから指名してもいいかな?」
え?
桐乃さんが誰かを推薦するんじゃなくて、推薦者を指名するの?
それって意味あるのか...?
「はい、佳林ちゃん」
「え、わ、私?」
うわ、お手軽なところを狙ってきましたよ。
確かに菊島さんはいつも桐乃さんにくっついているだけあって女子の友達とかは多そうだよな。
女子で速い人...
まぁ桐乃さん一択だわな。
あ、もしかして桐乃さん自分で自分のことを推薦するのが恥ずかしいから菊島さんに推薦させるとか?
どうやらDV彼女に豹変したとしてもそういう可愛さはなくなっていないらしい。
「き、桐乃ちゃんがいいと思います」
ほら。
てか声震えているけど大丈夫なんか?
「そうか~わたしか~。じゃあせっかくだから男子で選抜リレーに出るべきだと思う人も推薦してもらっていかな?」
「え?」
はい!?
もうええやん一人推薦したんだから。
違う人に推薦させろよ...
菊島さんが桐乃さんに言われて男子の誰かを指名するって言うのは何か嫌な予感がするし...
「ほらほら~、佳林ちゃんが選抜リレーに出るべきだと思う男の子は誰かな~?」
「そ、それは...っ!?」
「もちろん、"あの子だよね"」
またもや菊島さんの顔が激痛に耐えるかのような表情に変わる。
二学期に入ってからよく菊島さんの苦しそうな顔目にするな。
...多分今も後ろから桐乃さんに何かをされているのだろう。
もちろんエロい意味じゃなくて。
「ぬ、濡髪清人君を推薦します!」
言うと思いました。
「そっか~清人君か~。佳林ちゃんもいい目してるねぇ~」
桐乃さんが言うことを聞けた犬を褒めるように菊島さんの頭を撫でる。
「「「「「「「「「「「「「......」」」」」」」」」」」
そんな桐乃さんの様子を見て、完全にクラスメイト全員が過去の天使のような桐乃さんはもういないことに気づかされた。
あ、言っておくけど別に俺のせいじゃないからね!
あくまで我が妹と桐乃さんとの間で繰り広げられた激戦が原因ってだけで俺のせいじゃないからね!
「はい、じゃああとは百メートル走の速い順で選びまーす」
随分適当だなおい。
もしかして今の推薦制の流れって、俺を出場させるためだけの...?
「はい、今名前を呼んだ八人プラスわたしと清人君の十人に決まりました。それじゃ十人はまた個別に指導するからわたしについてきてね、残りの人たちは大繩の練習しといてね」
言われた通り桐乃さんについて行き、ちょうど曲がり角もあるグラウンドの端にまで行く。
「二百メートル走で特に注意しなくちゃいけないことは体力の配分と曲がり角だね」
なんせあの百メートルの二倍はあるからな。
序盤で全力疾走すれば後半は一気に失走しちゃうし、逆に序盤に力を抜きすぎると後半から巻き返すのは不可能になる。
「それじゃまた一人ずつ指導していくね」
桐乃さんはまず俺たちに二百メートル走を走らせ、その後に具体的な技術面を教える。
「はい、じゃあ次は清人君、走ってみて」
スタートラインでこの前桐乃さんに教えてもらった通りのクラウチングスタートの体勢をとる。
二百メートル走も最初はクラウチングスタートだ。
桐乃さんの手を叩く音と同時に駆け出す。
うわ、やっぱりいざ走ってみると最初に体力をほぼ使い切りそうになるな。
ちょっとスピードを...あ
俺がスピードを落とし始めたところはちょうど過度の部分であり、バランスを崩して倒れこむ。
「...ぉ」
この痛みは...すりむいたな。
でも全然大丈夫、この痛みぐらい毎回の修羅場で降りかかる衝撃に比べればどうってことない。
と、そこで桐乃さんたちの方を向いてみると...
明らかに笑いをこらえている顔だな...
桐乃さん以外のほとんどが、鼻の穴を大きくして必死に笑いを堪えている。
そして、桐乃さんはというと
「......」
膝をすりむいている俺に見惚れていて、また何かにときめいたかのような瞳をしていた。
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