放課後練習①
「ほら、みんな列揃えて」
宣言通り、始業式の翌日の放課後から体育祭に向けての練習が始まった。
だいたい初めての練習では大繩からするよな。
「おい清人、お前一発目で引っかかって早く練習終わらせてくれや」
俺のすぐ後ろから赤沙汰の声がする。
あ、そういえばこいつ俺より若干背大きかったよな。
大繩は背の順に並んで飛ぶのが効率がいいと言われており、俺は前列 (実質最前列)に並んでいる。
...なんか赤沙汰が俺より身長が高いのは腹立つな。
男子と女子でそれぞれ前後で別れているが、桐乃さんとかはかなり身長が高いため、結構近くから声が聞こえてくる。
女子の最前列に並んでいるのは...まぁ菊島さんとかか。
「いい?いっせーので飛ぶからね」
桐乃さんが普段よりも大きな声で話す。
「いくよ?いっせーの!」
せい!と心の中で叫んで飛んだが、あいにく縄は飛ぶ前に停止していた。
「...誰かな?誰が引っかかったのかな?」
普段こういう時はお調子者の男子が誰だよ引っかかったやつーって大声を上げて場を和ますが、今回は桐乃さんがその役をしており、なんか言い方がガチっぽく聞こえる。
「名乗り出てきてほしいなー」
全員がそれぞれ視線を合わせる。
まぁそりゃあんなガチトーンの桐乃さんを前にして自分から名乗り出るなんてできんよな。
「清人、お前名乗り出てあげろよ」
「え、なんで俺が?」
「だってお前彼氏だろ?彼氏なら桐乃さんも何も言わずに許してくれるだろ」
「た、確かに」
ここはいっちょクラスメイトの為に脱ぎますかねー。
それに、俺がミスするなんてよくあることだから今更恥ずかしがる必要もないし。
「あ、ごめん桐乃さん?」
「ん?どうしたの清人君?」
「いや、さっき引っかかったの俺みたいでさ」
「......」
あははは、と笑って見せるが桐乃さんは何も言わない。
え?なんで無言になるの?それとその無表情多分受け入れられるの俺ぐらいだからやめておいた方がいいよ?
「あ、清人君だったんだね。も~う、しょうがないな。次から気をつけてね」
数秒無表情だったが、それもすぐに終わり、またいつもモードの桐乃さんに戻った。
普通ここでまたクラスの敗北者たちの嘆きが聞こえてくるはずだが、みんな桐乃さんのキャラ崩壊に勘いているのか何も言わない。
「ほら~、気を取り直してもう一回やるよ~」
すぐに切り替え、全員が所定の位置に戻る。
「いくよー。いっせいの」
せい!
.......
ありゃ?
またもや縄が回ってこない。
「...誰かな?」
全員がまた急いで犯人捜しをする。
と、ここで普段なぜか視力だけがいい俺が、自分とは反対方向の最前列の女子が震えていることに気づいた。
最前列と言ったら...菊島さんか。
こりゃまずいな。
桐乃さんは菊島さんが俺と桐乃さんのイチャコラを盗撮していたと分かったときから、少し菊島さんに対してのあたりが強くなっている気がする。
もしここで菊島さんが原因だと分かれば...
「清人、もういっちょお願いします」
赤沙汰もこう言っているし、なんだかクラスメイト全員が俺のことを懇願の眼差しで見てきているようだから、動くしかねぇーですわ。
「あ、ごめん桐乃さん、実はまた俺が足を引っかけていたみたいで」
「...また清人君なんだね...よし、じゃあ今度は清人君をサポートするためにわたしが隣で教えてあげるよ」
ほぇぇぇぇぇぇぇー//
来たよこういう展開!
ほら、お前らいつもみたいに負け惜しみ履けよ!
俺の飯を美味しくしろ。
「「「「「「「「「「「「............」」」」」」」」」」」」
ちょっと!?その同情するかのような視線やめてくれます!?
あ、やばい、桐乃さんの体とちょうど当たっているから勃ってきた。
しかもジャージだから余計テントが目立つし。
「いくよ~、いっせいの」
ちょ、ま
......
またもや、せい!で縄は来なかった。
それもそのはず。
だって俺が飛ぼうとした瞬間思いっきり転んだのだから。
「「「「「「「「「「「「............」」」」」」」」」」」」
お前らの気持ちはよくわかる。
笑いをこらえてるんだろ?
なんせ最前列の男が盛大に転んだのだから。
俺だって吹き出しそうになるさ。
でも、俺の隣にいる桐乃さんがとんでもない圧を放っているから、笑ってはいけない状態なんだろ?
ちなみになんで俺が転んだかというと、必死にテントを隠そうと股間を両手で押さえていて飛ぼうとしたらバランスを崩しただけのことだ。
「大丈夫清人君?立てる?」
桐乃さんが手を差し伸べてくれる。
「あ、ありがとう」
実は今手を直握られるのではないかと身構えたが、そんなことはなかった。
確かに桐乃さんは少し乱暴になったけど、俺にDVを振るうのはあくまで俺が他の女性にうつつを抜かすときぐらいみたいだ。
「じゃあもう一回行くね~い、せーの」
この後も誰かが序盤で引っかかりまくって、だんだんと桐乃さんが不機嫌になっていき、そのたびに俺が彼女のご機嫌取りをするというやり取りを最終下校時刻まで続けた。
結局、今日我がクラスが呼べた回数は、合計でも二桁を超えませんでした。
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