成長した歩歌
「...分かっているのならとっとと放せ」
「やめときなさいよ、あんな雌ゴリラと真っ正面から戦えばいくらアンタでもただじゃすまないわよ」
「...珍しいな、お前が私の心配をするなんて。だが心配は無用だ。私自身日々成長している。それに、たとえ刺し違えたとしてもヤツは浄化しなければならない」
「別にアンタのことを心配しているわけじゃないわよ。だけど、アンタが行けば、あたしたちにも迷惑がかかるの。もちろん、兄さんにもね」
なんというか...
二人がここまで真剣に言い合いするところは初めて見た。
特に歩歌がこんな熱く説得するとは...
いつもの一匹オオカミ属性は捨てたのか?
「アンタの気持ちはよくわかる。あたしも同じ気持ちだから。許されるのなら、今すぐあいつの急所に包丁を突き刺したいぐらい」
その光景はグロいな...
せめてペ二
「けど、そんなことをすれば兄さんに迷惑がかかるのは百も承知なこと。アンタも、何もかも無視して自分の意志を貫こうとするのはやめなさい。そんなことをしてはいけないとあたしに教えてくれたのはアンタでしょ...」
「歩歌...」
おお...なんかエエ雰囲気やんけ。
感動系百合漫画みたいな空気やんけ。
風珠葉も二人の光景を見て目をうるうるさせてるし。
「アンタが本当にあの雌ゴリラから兄さんを奪いたいのなら、もう少し手段を選びなさい。暴力もいいけど、それは完全にその状況が許される場面になったら使いなさい」
歩歌がゆっくりと凛華の手から竹刀を取る。
「そう、だな。私はまた少し周りが見えなくなっていたようだ」
正気に戻ったかのように呟いた跡、歩歌に向き直る。
「礼を言うぞ歩歌。お前に助けれられた」
「別に助けたなんて大したことしてないわよ。アンタがあたしに教えたことをアンタに返しただけ」
「だとしてもだ。ありがとう」
凛華が歩歌に頭を下げた。
もしかして俺は今、歴史的瞬間に立ち会っているかもしれない。
ただ...
なんかどうしても歩歌がこんなに凛華に対して助言を与えているのは...裏があるという疑惑が拭いきれない。
いや、だって今までの凛華と歩歌見ていたらこんなことになるなんて誰も想像できないでしょ。
少し前まで互いを他人扱いしていたのに。
これも颯那の偉業の一つなのか。
それとも、歩歌の何かの戦略なのか。
まぁいずれにせよ、完全受け身となる俺が今気にすることじゃないな。
歩歌の説得が終わり、食事を再開する。
さっきまではあんな雰囲気だったが、食事が始まるとまた沈黙に戻る。
誰一人声を発さないのには変わりないが
「......」
凛華から放たれる無言の圧が、緩和された気がした。
食事が終わり、風呂に入り終えると、すぐに自室にこもる。
もうさすがに九月なため、そろそろ真剣に小論文の勉強を始めなくてはならない。
推薦の場合は大体十一月に試験があるため、あと二か月しかない。
まぁでも俺 (with 桐乃さん)ならなんとかいけるっしょ。
てかマジで明日からの放課後練習ダルいな。
多分三年生で放課後練習するの俺たちのクラスだけだろ。
ちなみに、俺が一、二年のときのクラスは一度も放課後練習に参加していなかった。
それが普通やねん。
こんな無気力症候群が蔓延している高校の体育祭ごときで大切な放課後を使う方がどうかしてるねん。
だから今日の放課後に一、二年のほとんどのクラスがグラウンドに集まっていたのを見て驚いた。
...もしかして、条棟の無気力文化は俺たちの代で途絶えた?
「...まだ痛むやん」
さっき洗面所の鏡で改めて自分の首を見たが、やはりはっきりと手の跡が残っていた。
桐乃さんが意図してこんなに俺に痛みを与えたのは初めてだ...
多分明日からだんだんDV彼女ムーブをかましてくるだろう。
「...冗談抜きに俺もうすぐ監禁とかされそうじゃね」
目が覚めたら桐乃さんの部屋にいるねん。
最初は手足を自由に動かせるけど、そのうち俺が逃げ出したりしてお仕置きとして手足が縛られんねん。
その状態だから当然桐乃さんの手で俺に食事を食べさせてくれるけど、今度はその食事を吐き出すことで反抗すんねん。
そしてとうとう堪忍袋の緒が切れた桐乃さんが俺の手足を切断して無事桐乃さんがいないと生きていけない体になる。
なんていう展開を期待しないでもない。
「...そんな想像していたらまたペニスエクササイズしてきたくなってきた...」
やはりこんなに性欲が詰まった状態で勉強なんかできるはずもなく、早速アップをし始める。
ちなみに、結局運動したせいで疲れてそのまま眠ってしまい、一切勉強に手がつかなかったのは秘密で。
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