暴かれるマーキング
「......」
食事中も、やはり首を手で触り確認してしまう。
凛華と別れたあと、校門から少し離れたところに出るとようやく桐乃さんが俺の首から手を放してくれたが、手の跡が誰から見ても分かるように残ってしまった。
もしかしたらそれも桐乃さんの戦略の内の一つなのかもしれないけど。
今は絆創膏を貼っているためうまく隠せている。
...俺の首もうマーキングされ放題やん//
「どうした清人、そんなに首を触って」
いつもは黙食を掲げている凛華がそれを破って俺に訊いてきた。
「ちょっと怪我してな...」
「首に怪我だと?それはかなりの重症じゃないか?そういえばお前は姉様が出て行った日からずっと首に絆創膏を貼っているな。そんなに前から怪我していたのか?」
「ま、まぁそれはそうなんだけど...今日のはまた別に」
「なんだと?立て続けに二度も首に怪我をしたのか」
あかん。どんどん危ない方向に話が進んでいる。
「どれ、私が少し見てやろう」
「い、いや、保健室で消毒してもらったりしたから別にいいって...」
「だとしてもまた傷が発症したりしているかもしれないだろう。安心しろ、私は少しだけだが医療の知識もある」
マジすか!?
医療の知識なんてどこから身に着けたんすか!?
って、あれか、保健体育か。
なぜか俺みたいな人種が高得点を取れるという偏見を抱かれている保健体育か。
どうせそういう偏見を抱いている連中は、俺や元同志たちがそう言った知識だけは持っていると思っているが、実際にはその単語を覚えているだけだから、ああいう読解力が必要な問題とかは普通に解けない。
多分凛華の場合はそういった単語に興味があるというわけではなく、ただ単に知識として知っているっていうだけだろう。
俺もあんましクール系女子が下ネタとかで興奮しているのは見たくないし。
「...剥がすぞ」
あ、あ~んちょっとそんな触り方しないで~//
...いや、触り方は別に変じゃないな。
「な、なんだこの手の跡と歯型は!?」
俺の首に貼ってある絆創膏をはがした凛華がそう驚愕する。
その単語に、先ほどまで無口だった歩歌と風珠葉も反応する。
「この歯型は十中八九姉様のだとして」
あ、それはすぐに分かるのね。
「この手形は...おい、まさか、あの女か」
まぁ手形も今日の様子から見て桐乃さんしかいないわな。
「は?この兄さんの首についている手形ってあの雌ゴリセフレのなの?」
とうとう略されちゃったよ。
「...ひどい」
風珠葉は手形を見るなり体を震わせる。
「...あの外道女が」
凛華は箸をおくと、何かをとりに二階に上がっていった。
あの凛華が食事を中断して自室に戻る。
...いやな予感しかしない。
「...アンタまさかちょっと興奮しているわけじゃないでしょうね?」
「し、し、し、してるわけないやん!」
「隠すの下手すぎでしょ...」
歩歌にはお見通しでしたか...
いや、だってあんなお嬢様に首を噛まれて、DV彼女に豹変した完璧系女子桐乃さんに手の跡が残るほど首を絞められて興奮しないわけがないやん。
「歩歌ねぇやめなよ!お兄ちゃんだって苦しんでるんだよ」
「いや、この表情のどこが苦しんでいるっていうのよ...」
風珠葉のあまりの人の好さに呆れる歩歌。
そんなやりとりをしていると、凛華が階段から降りてきた。
竹刀を持って。
「ちょっと凛華さん?その竹刀を何に使うつもりですか?」
「決まっているだろう。あの外道女を浄化するために持っていくんだ」
浄化...
直訳すると粛清。
「では、私はこれから少し出掛けてくる。夕食は私抜きで食べておけ」
そうとだけ伝えると、背を向けて玄関に向かう。
「え、いや」
「凛華ねぇ!」
俺と風珠葉が止めようと急いで玄関に走る。
だが、それよりも早く凛華を止めたのは
「...手を放せ歩歌」
なんと歩歌。
「もう少し冷静になりなさいよ。アンタ、本当にあたしに言われた通り、脳筋で貧乳なの?」
ここで煽るようなことを言ってどうするんですか歩歌さん!
今はそんなプレイ望んでませんって。
「...歩歌、本来ならお前も浄化対象だが、私の妹という理由だけでそれを免除しているということを忘れるなよ」
「だから冷静になれって言ってんの。アンタ、その竹刀で今からあの雌ゴリセフレの家に突撃して半殺しにするつもりでしょ」
今結構深刻なこと話してるのに、歩歌の"雌ゴリセフレ"という言葉で思わず吹き出しそうになる。
...てか歩歌が凛華を止めるなんて濡髪家がこの世に誕生してから史上初な出来事かも。
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