妹たちの長女に対する本音

「あら、最後の朝食だというのに、いつもと変わらないのね」


八月二十九日。

今日中に颯那は寮に帰らなければならない。


「...姉様がお帰りになる日だけ豪華な朝食にしたら、まるで姉様が寮に帰還することを嬉しく感じているように映るのではないかと」


「その割には、わたくしが帰ることへの喜びが隠せていないようだけれども」


「......」


凛華は押し黙るが、図星を突かれたことには変わらない。


喜んでいるのは凛華だけではなく、歩歌と風珠葉もそうだ。

風珠葉から呼び戻されたのに、その本人が早く帰れと思っているとは...さすがに颯那に同情する。


あれだな、部活中は後輩から慕われている先輩が帰った瞬間背中に中指立てる原理と同じだな。


俺風だと、ヤンデレDV彼女の前では必死にご機嫌取りをするが、彼女が仕事に行った瞬間ネットでめっちゃ悪口を呟くのと同じだ。

まぁ、どうせ後でバレてきついお仕置きをされるというのがオチだが。


「それで、姉様、いつ頃お帰りに?」


「お昼を過ぎたら出て行くわ。それまでは少し準備があるからわたくしはこれで」


朝食を食べ終わった颯那は三階の自室へと向かった。


「やっと出て行くか。これでようやく安心できる」


凛華が開口一番にそんなことを口にする。


「ちょっと滞在期間長すぎじゃない?」


「私に言われても困る。恐らく姉様のことだから、寮生たちにも表では慕われているが裏では煙たがられているのだろう。

こんな長期帰省が許可されたのも、そのまま実家から通ってくださいというメッセージが込められていたのかもしれない」


めっちゃ言うやん。

まぁ凛華は一番見下されていたから無理もないか。


「本当にごめんね...まさか、颯那ねぇがこんな長い間家にいるとは思わなかったから...」


電話で颯那を呼びだした等の本人である風珠葉が謝罪する。


「本当よ。もとはといえばアンタが颯那姉さんを呼び戻したせいでこんなに居心地の悪い夏休みになったんだからね」


「まぁそう風珠葉を責めるな。もとはといえば私とお前の仲が悪化していたのが原因なのだから」


そうだった。

一応風珠葉は凛華と歩歌仲を修復するという大義名分を掲げて颯那を呼び戻したんだった。


で、肝心の二人の仲はと言うと...


「悪化していたのはアンタが原因でしょ?あたしを他人扱いしていたの忘れたわけではないのよね?」


「当然だ。なんせあの頃のお前は他人以外の何者でもなかった」


「なら安心して。あたしにとってはアンタは今も貧乳怪力女以外の何者でもないから」


「...歩歌、お前まだ境界線を学んでいないのか?」


「...アンタどんだけ胸がコンプレックスなのよ...」


まぁおおむね改善されたと言えるだろう。


このようにまだまだ喧嘩することはあるが、以前のあの冷戦状態よりはだいぶマシだ。


...もしかしたらこれは颯那という共通の敵がいたからかもしれない。

あ、でもそれは桐乃さんにもいえることかもしれない。


「それで、今夜はパーティーでもする?」


「何のだ?」


「決まっているでしょ。あの陰湿な姉さんが家を出て行く記念のパーティーよ」


おいおい、今の歩歌完全に後で先輩にバレてシバかれる小物ムーブかましてるやん。

あ、ちなみに俺の場合はあとでヤンデレ彼女にバレでDVされた挙句にガチガチに拘束されるか、手足を切断されるかの二択だ。


「...やめておけ。いつ、姉様の耳に入るか分からん」


「なに、アンタビビってんの?あーあー、これは貧乳怪力チキン女に格上げね」


「...ここまで面と向かって直接悪口を言ってきたのはお前が初めてだ、歩歌」


え?もしかして


「いいだろう、そこまで言うのならパーティーではないが、少し姉様が帰還する記念として盛り上げてやろうか」


「は?アンタ、格闘技でもやるつもり?これだから脳筋は...」


うわー完全に凛華がやる気になっちゃったよ。


仕方ない、こういうときは


「お、パーティー、それいいね。せっかくだから桐乃さんも呼んで乱交パーティーとしましょうか」


「...は?」


「おい清人、今のは冗談で通じないぞ」


よし、こうして二人を抑え込むと。


にしてもなんで俺が手なずける側に回っているんだ?本当は俺が手なずけられる側に回りたいのに。


「あら、随分楽しそうなことをお話ししておりますのね」


と、リビングのドアから声がした。


「姉様...いつからそこに...それとご準備は」


「準備ならもう終わったわよ。それよりも、乱交パーティーですって?」


なんでその部分から聞こえていたんだ!?


「凛華、あなた、少し見ないうちにずいぶん淫乱になったのね」


「い、いや、私が言い出したわけじゃ」


「ならいいでしょう。そんなことをする暇があったら、全員わたくしを駅まで見送りなさい」


「「「「......」」」」


こうして俺たちは新幹線が通っている少し遠い駅まで颯那を見送ることになった。

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