分岐点
「わたくしと一緒に来ませんか?」
「......」
ん?えーっとつまり?
この場合の"一緒に来ませんか?”というのは俺が女子寮に行くってこと!?
「今の深海女子学園女子寮の実権を握っているのはわたくしです。そのわたくしが男性の一人を寮に連れてきたとしても何も問題になりませんわ」
いや、百パーなるでしょ!?
多分お嬢様学校の寮に男が紛れ込むのは新聞に掲載されるレベルだぞ。
それに、実権を握っているってどういうこと?
颯那が寮長を買収したって感じ?
...颯那なら平気でやりそうなところが怖い。
「いや、でも学校は...」
「学校なんてやめていただいて結構ですわ。兄様はずっとわたくしの足元で暮らしていけばいいのですから学歴なんて不要です」
お、こりゃまた俺のヒモ選択肢が増えたな。
「私は大学も実家からではなく、女子寮で過ごすことが決まっております...このまま行くと、兄様と再び一緒に過ごせるのは六年後...いえ、もしかしたら就職先もどこかこの地から離れた場所に位置しているかもしれません」
もう就職まで意識しているのか...
まぁそりゃ俺というヒモ (ペット)を養わなくちゃいけないのだから稼ぎは必要だわな。
それこそ外資系で海外に転勤になるとか。
「そうなったら...もう一生兄様に会えないかも」
颯那の声量が小さくなる。
「...小さい頃のわたくしは今より普通の少女でした」
そうだったっけ?
「周りの友達と遊び、兄妹とは喧嘩もするけど協力もする。家族と一緒にどこかお出かけすることが楽しみ。そう言った、どこにでもいる普通の少女でした」
俺は颯那に対して、ただただ嗜虐審の強いお嬢様という印象しか持ち合わせていないから、その昔の普通な少女の颯那を知らない。
「ですが...いつからかわたくしはみんなと遊ぶ側から、皆を支配する側に回り込みました。その原因が何だったのかは今となってはよく覚えておりません」
颯那がお嬢様に変貌したきっかけ...
...それは少し興味ある。
「しかし...その原因を作ったのは兄様だということは深く頭の中に刻み込まれています」
え?俺なんかした?
「つまり、"今ここに在るわたくし"を創り出したのは、兄様、あなたです」
もしかしたら俺のドMムーブが知らず知らずのうちに颯那の心をときめかせていたってこと?
俺も罪深い男やな。
「兄様には"わたくし"を誕生させた責任があります」
その責任を取る方法は...
「ですから兄様...この家を抜け出し。わたくしと生涯を共にしていただけませんか?」
当然これしかないよな。
責任を取れと言っている割には、命令というよりも懇願に聞こえる。
...てか今俺何気に逆プロポーズ受けている感じ?
"生涯を共にする"ってそういう意味だよな?
なんかいつもの颯那よりも弱々しい感じが現実味を帯びているし。
これってもしかして超重要な分岐?
ほら、ギャルゲーでどのヒロインルートに飛ぶかの選択しみたいな。
さっきから何となく颯那に言っていることに納得している素振り見せていたけど、俺全く颯那が言っていること理解してないからね!?
俺が颯那をドSお嬢様に仕立てたと言うけど、本性が露わになっただけでしょ?
それに、颯那が普通の少女だった記憶なんて全くないし。
まぁでも一応は返事を返さなくちゃな。
この取り返しのつかない選択肢に。
「すまない颯那、それはできない」
「......」
当然俺としてはNOを選ぶまでだ。
確かに颯那と共に暮らした方がいろんな意味で俺の人生は充実するかもしれない。
念願のヒモという就職先もかなうし、人権がないような扱いもされる。
まさに俺としてはプラスしかないようなバラ色人生が待っているかもしれない。
ただ...今この状態で俺が突然姿を消すのは現実味がないし、あまりにもリスクがありすぎる。
さっき颯那は女子寮の実権を握ていると言ったが、内部の女子高生がどこかにスクープでもしたら俺は社会的に人権がなくなる。
そして、取り残された我が妹の誰がか、又は桐乃さんが追いかけてくる可能性だってある。
そうなったとき、もし颯那が俺を連れ出したことが知られれば、もう俺も颯那も一貫の終わり。
「兄様は、そうおっしゃると思いましたわ」
ペットに拒否されたというのに、颯那はどこか自虐的な笑みを浮かべていた。
「全く、飼い主にと共に来ることを拒絶するとは、兄様はどこまでも駄犬ですね」
颯那は俺から顔を遠ざけると、そのままベッドに倒れこむようにして横になった。
「ほら、着なさい駄犬」
颯那が今まで以上の強い力でリードを引っ張る。
それに身を任せるまま、俺もベッドに横になる。
「わたくしが出て行ったらこの首輪も外されてしまうでしょう。だから、首輪以外にもわたくしのものだという証をつけさせてもらいますわ」
颯那が俺から首輪を外す。
「では、いただきます」
「ん?え、ちょ」
俺が颯那が何をするのか察する前に、颯那は俺の首に歯を立てた。
「うっー」
とうとうヤンデレ吸血鬼お嬢様になったのか...
「---------」
首を噛まれるという体験により、未知なる快感が流し込まれてくる。
今自分はヤンデレ吸血鬼に調教されていますと心の中で思えば思うほど、息子に栄養が渡る。
この自分を新地へと誘う快感をかみしめながら、もしかしたら俺が颯那と一緒に駆け落ちするという選択肢をとる世界線もあるのかもしれないと、一種の願望を抱いた。
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