愛犬との最後の戯れ
「あら兄様、飼い主より先に部屋に戻っているとは...いい子ですわね」
風呂を出た後、颯那の部屋で一人寂しく待機していたら、颯那が入ってきた。
今にして思えば、この夏休み、颯那が帰ってきてから颯那の部屋で一晩過ごした日の方が多い気がする。
「少々、寂しく思いますわ。もう今日でこの兄様がわたくしの部屋にリードでつながれている光景を見るのも最後だということに」
今は八月二十八日の夜。
もう夏休みも残ること三日。
そして明日には颯那は寮に戻らなくてはいけない。
おそらくその事実に俺以外の妹たちは全員喜んでいることだろう。
颯那を呼び戻した風珠葉も、今はいろいろと負い目を感じているからな。
「明日の何時ごろ出るんだ?」
「最終的に、夜の点呼の際にあちらにお戻りにならればいいのですから夕方ごろに出発しますわ」
「そうか...」
ちなみに勘違いしないでもらいたいのだが...俺はめっちゃ寂しい!!!
そりゃ、風珠葉が颯那を呼び戻したと聞いたときはまたイジメられるという嬉しさよりもトラウマ級なことをされるという恐怖心が勝っていた。
だが、この夏休み中に少なくとも貞操帯レベルなことはされなかった。
そして、まさに俺のドM心を直に刺激するようなことばかりしてくれた。
やっぱり颯那は誰よりも俺の性癖を見抜いているんだと思う。
そのうえで、俺が喜びそうなプレイを"強要する"というかたちをとってくれる。
「せっかく愛犬である兄様と一緒にいられると思ったら...時間というのは、思った以上に残酷ですね」
そりゃそうだ。
俺もこの高校生活最後の夏休み、もっと過激なプレイをしてもらうはずだったのに、もう終わりが来てしまった。
時間というのはいつも俺の性癖の邪魔ばかりしてくる。
「兄様は、学校が始まるとまた絹井さんと異性不純行為をするおつもりで」
言い方に悪意があるし、まだそこまでのことはしていないが、まぁいずれそういうこともされるのはあながち間違いではない気がする。
「...やはり、あの女性は兄様に相応しくないですわ」
今の言葉には、珍しく強い感情が見受けられた。
「あの方は、兄様にわたくしと同じような目を向けていますわ」
「というと?」
「まるで自分の可愛いペットを温かく見守るような目ですわ」
確か、桐乃さんが前に俺に惚れた理由が、俺みたいな弱者が必死にもがく姿を見てときめいたから的なことを言っていた気がする。
...なるほど、それなら颯那の言っていることもあながち間違いじゃないし、なんなら颯那と何か通じるものがある。
「ペットは飼い主だけのものであり、飼い主以外には尻尾を振らない。これは、自然の摂理ですわ」
いや初めて聞きました。
それはヤンデレSSの中の常識なだけであって、自然の摂理とはまた違うような気が。
「絹井さんはよりにもよってわたくしの"モノ"を略奪しようとしている。わたくしが今まで調教してきたこの世で最も愛らしいモノを」
颯那の言葉を発するスピードが速くなる。
「せっかく長い間、わたくし好みに調教してきた所有物を、ぽっと出の女性にとられるのは...非常に不愉快ですわ」
だんだんと暴君モードの面影が表われてきている。
「いえ、今にして思えば、わたくしの所有物を略奪しようとしているのは何も絹井さんだけではありませんわね」
それは俺が一番よく分かっている。
「凛華も、歩歌も兄様を狙っている。わたくしの許可なしに手を出そうとしています」
確かに、俺は完全に颯那によって調教された所有物なんだから、持ち主の許可は必要だわな。
「少々、兄様の周りには強欲な女性が多すぎるかと」
それは俺も思う。
現に今も目の前にそんな女性がいる。
「おそらく、わたくしが寮に戻ると、彼女たちは兄様を自分のモノにしようと強奪戦を始めるでしょう」
...もう前みたいに警察沙汰になるようなことだけは避けてほしいが。
「わたくしが...最初に兄様に手を付けたわたくしが、その強奪戦に加われにないのが、非常に無念ですわ」
今の颯那は、心の底から悔しさが滲み出ているように感じる。
「...兄様、つかぬことを伺いますが」
颯那が俺に顔を近づけ、目と目を合わせる。
その瞳からは、背けることを許さないという気迫が見て取れる。
「...わたくしと一緒に来ませんか?」
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