ペット想いなご主人様

「ほら兄様、わたくしが食べさせて差し上げます。あーん」


「あ、あーん」


無事に綿あめの屋台までたどり着くと、宣言通り颯那が全員分の綿あめを買ってくれた。

そしてペットの俺に食べさせてくれている。


「兄様、もう少し近くに寄ったらどうですか?それじゃあーんもつらいでしょう」


「ぐっ、た、確かに」


分かったから。そんなに自然とリードを引っ張らないでくれ。

あ、ちなみにこれはもっと引っ張ってっていうフリね。


「「......」」


「あら、どうしたの凛華、歩歌?そんな反抗的な目をして」


「...別に」


と、歩歌は颯那との交戦を望まないため、指摘されるとすぐに目を逸らした。

だが


「...姉様は少し清人を甘やかしすぎかと」


「甘やかしている?わたくしが兄様を?」


「清人ももう高校三年生なんですからいちいち姉様に食べさせてもらわなくても、自分で食を口に含むことぐらいできるはずです」


その言い方だと俺が中学生だったら颯那に食べさせてもらう必要があったって言うこと?


「あら、でもあなたも一時期兄様にあーんしていたらしいじゃない」


ありましたありました!

凛華が雨と鞭モードをたびたび切り替えると宣言したときです!


「...私は普段厳しくしていた分、たまには飴も必要だと思って時々甘やかしていただけです。

ただ、姉様の場合は常に清人を甘えさせてばかりいます」


颯那が俺に甘い...?

でも、確かに俺をペットだと捉えると、颯那は滅茶苦茶優しい飼い主だ。


こうやってわざわざはぐれないように首輪とリードまでつけさせてもらって、服も聞かせてもらっているし、こうして俺に食事を颯那自身の手で食べさせてもらっている

あとしっかりと"ご褒美”ももらえるしな。


「だって兄様はわたくしの愛犬ですもの。愛犬を可愛がって何がいけないと言うの?」


「...前から気になっていましたが、なぜ清人が姉様の愛犬なのですか?そもそも清人は犬じゃなく人間で、私の将来のパートナーです」


途中まではめっちゃ兄として嬉しいことを言ってくれていたが、最後の単語は明らかに要らなかったな。


「...まったく、まさかあなたがここまで姉のモノを欲しがるわがままな妹だとは思わなかったわ」


「ですから、その前提がおかしいのです。清人は決して貴女のものじゃない」


なんで綿あめ食べているだけですぐに内輪もめしたがるかな...

ほら、風珠葉、出番ですよ。


「え、えーっと、つ、次はみんなで金魚すくいとかどうかな!」


「...いいんじゃない」


歩歌は風珠葉の提案に乗ったが二人は


「...金魚すくい。私はせっかく夏祭りに来たのですからぜひ体験してみたいですが、姉様はどうですか?」


「私も普段やらない遊びをするのは賛成よ」


ふぅー。なんとか殺し合いには発展しなかったな。


さて全員でまた金魚すくいの屋台に向かおうとしたとき


「そうだわ。わたくし、少々夏祭りでほしいものがありましたの」


といって、颯那だけ皆とは逆方向に進む。

...もちろんリードを引っ張りながら。


「...ちょっと、あれ、怪しくない?」


「ああ、私としても清人と姉様を二人っきりにするのはよろしくない」


まぁ当然そのまま三人だけで金魚すくいに直行というわけにもいかず、俺たち二人の跡を付いてくる。


凄い人混みの中なのに颯那は流されることなく進んでいき、それは後ろの三人も同じ。

この人たち体感よすぎでしょ。


さて、肝心な颯那の目的地はというと


「お面屋...?」


お面が売っている屋台だった。


やはり祭りのお面は高く、あまり繁盛していないためいくつものお面が売れ残っている。


「ごめんください。あれくださる?」


颯那が指を指したのは、よくお茶碗などで見る、まん丸い顔に、大きな耳がついている小さな子供が好きそうな犬のお面だった。


「ありがとうございますわ」


料金を支払い、お面を受け取った颯那はお面と俺の顔を交互に見る。


「やはり、兄様にぴったりですわね」


...まぁ颯那が犬のお面を...いや、お面屋を目指していると知ったときになんとなくわかってはいたが、案の定颯那は俺にその犬の仮面をつけてきた。


「...兄様、わたくしに感謝してください。どうも兄様は首輪とリードをつけられて散歩させられている姿をご学友に見られるのがお恥ずかしいみたいですから、わたくしが兄様の正体がバレないように兄様のお顔を隠して差し上げましたわ」


なるほど!

つまりこれは颯那の愉悦の為ではなく、俺の為を想って取り付けてくれたというわけか!

やっぱり颯那はペットに対する思いやりがあるご主人様ですな!


「では、今一度金魚すくいを目指しましょうか」


そしてまたもやリードを引っ張りながら金魚すくいの屋台を目指して歩き出す。


...いやーでもこのお面、謎に目の部分の穴が大きいもんですから、俺からは今の俺の姿を見てドン引きしている人たちの顔がよく見えます。

そして、我が妹たちの顔も。


風珠葉はなるべく俺の方を見ないようにあからさまに視線を逸らしている。

歩歌は軽蔑するかのような視線を俺に向け、凛華はなんとも言えない瞳を俺に向けている。


まぁこの手の羞恥プレイも悪くないと言ったら悪くない。


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「...あれは、清人、君?」

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