目の前に現れたタブー的存在

「凛華ねぇ、強すぎ...」


「アンタ...身体能力ゴリラね」


「歩歌...今のは聞かなかったことにしよう」


五人で金魚すくいを行ったが、釣った数は凛華が圧倒的だった。

その次に風珠葉、颯那、歩歌、俺という順番。


まぁ俺が圧倒的最下位というのはやる前から分かりきっていた結果だったので、そこについては深く触れないでほしい。


にしても...網切れるの早過ぎじゃね?

ちょっと水の中で乱暴に動かしたらすぐ切れるし。


...なんか俺の網だけ細工されていたんじゃね?


もしかして、あの店主俺に嫉妬していたのか?

ドレスを着ているお嬢様に首輪とリードをつけられている犬兼性奴隷である俺に嫉妬していたな!?


「ところで...姉様、少々釣った金魚の数が少ないのでは?」


まぁ当然凛華としては煽りたいよな。


「...ええ、どうやらわたくしにはこの手の遊びは不向きのようね」


「不向きというか、単純に能力が足りないだけでは?」


なんか凛華がこういう煽りをするのめっちゃレアな気がする。


「たかがこんなお祭りの遊びごときで多少わたくしに先手を取っただけでここまで気が大きくなるとは、愚妹もいいところね」


「その愚妹に負けたのが姉様、貴女です」


ちょっと凛華さん?もうそろそろ止めておいた方が。


「凛華、気が大きくなる分には結構ですが、わたくしを見下すのは少々よろしくなくってよ?」


「見下しているわけではありません。姉様の限界が垣間見えた気がするだけです」


ああーもう一瞬触発状態になっちゃって...

よし、風珠葉、出番や!!!!


だが、今度の冷戦に待ったをかけたのは風珠葉ではなかった。


「ごめん、やっぱりきみ、清人君だよね?」


「え、え!?き、桐乃さん!?」


突然人ごみの中から桐乃さんが姿を現し、乱入してきた。

しかも浴衣を着て...


「清人君、どうかな、わたしの浴衣」


「ど、どうって」


颯那と凛華の中を遮って俺に近づいてきて、俺に浴衣をお披露目する桐乃さん。


桐乃さんが着ている浴衣は、全体が薄紫色で、リンゴの絵が描かれている最新の浴衣というイメージがする。


「ちょっと、なに、アンタ。もう兄さんに近づくなって言ったわよね?」


「ちょっと黙っててもらえるかな歩歌ちゃん。今清人君に浴衣の感想を訊いているんだ。それでどうかな清人君」


「ま、まぁ桐乃さんらしさが溢れていてとても似合っているよ」



「はぁ?兄さんも何答えているのよ。忘れたの?この女が兄さんに何をしたのか」


そうだった。

俺はよくてもまだ妹たちにとって桐乃さんの存在は嫌悪の象徴だろう。


「同意見だ。貴様、どの面下げて清人に会いに来た...」


凛華が今までに感じたことのない殺気を放ち、桐乃さんに詰め寄る。

貴様呼びなんてよっぽどのことがない限りしない。


「...確かにあのときのわたしのしたことは許されることじゃないし、自分を正当化することなんてしない」


「黙れ...貴様の言い訳など何一つ価値がない」


凛華が今すぐ立ち去らないと、武力行使すると目で警告している。


「正当化しなかったからこそ、清人君がわたしの家に泊まりに来たとき以来、直接会ったりもしてなし、メッセージのやり取りもしてない」


「家に泊まったって...どういうこと、兄さん?」


え?まさか初耳!?

てっきり颯那が伝えていたと思っていたが...


確かに、そのことに関して凛華と歩歌が俺を問い詰めたりしなかったことで違和感はあったが...


「...この女の今の話は本当か、清人?」


「い、いやーそ、それは」


「はっきりしろ」


「...はい、家を抜け出したときに泊まったのは桐乃さんの家です」


「...そうか。やはり、もっとお前には鞭の割合を増やした方がよさそうだな」


だからそういうエロイ言い方するのやめて!?

こんな状況なのに、俺の顔がメス顔になっちゃうから。


「二人とも、少し落ち着きなさい」


「はぁ?こいつがのこのこと兄様の前に現れて落ち着けるわけないでしょ」


「いいから落ち着きなさい。ここでそのような振舞い方をしていたら人目につくわ」


いや、もともと颯那のドレス姿と、俺の犬兼性奴隷姿のせいでもうすでにめっちゃ注目集めているぞ。


「それに、感情論だけで話を進めても意味はないわ。ここは彼女の言い分も聞かないと」


「この女が吐くたわごとに意味があるとでも?」


「意味があるかは人それぞれ。あなたに意味がなくてもわたくしには意味があるのかもしれないわ」


なんかめっちゃ颯那がまともなこと言っている気がする。

やっぱり全員を従えさせられるお嬢様は違うなぁ。

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